ハーメルン
【完結】四肢人類の悩み
06話 なんで勉強しなくちゃいけないんだろう、って誰でも一度は考えたよね

「ああもう、わっかんねー!!」

 獄楽が叫び声をあげ、大の字で後ろ向きに倒れ込む。机の上には、使用者のいなくなったシャーペンとノートに教科書が残された。

「コラ希! まだ30分も経ってないぞ!」

「んな事言われたって、わかんねーモンはわかんねーんだよ!」

 うがぁぁぁ、とゴロゴロ転がり、馬の足にぶつかって止まる。そのままもそもそと膝枕の態勢に移行し、そっぽを向いて動かなくなった。

「お前なあ、なんでわざわざ日曜に勉強会やってるのか分かってんのか。次のテストで二連続赤点取らないためだろ」

「わーってるよ。でもんなコト言ってもよ、こんな公式なんか頭に入んねえよ」

 どうやら獄楽は、数字とアルファベットの羅列を見ると目が滑るタイプのようだ。確かに数学には向き不向きがある。あるがしかし、高校一年生、それも基礎的な公式程度なら、努力次第で何とでもなるはずである。

「お前なぁ、その考え方からしておかしいだろ。一応これでも『数学』なんだぞ、学問なんだぞ。パズルじゃないんだから、公式丸暗記しても仕方ないだろ」

 半ば呆れたように言い聞かせるように名楽が言う。

「ちゃんと考え方あるんだからそれを理解しろよ。そしたら公式なんて忘れても、試験中に導き出せばいいんだから」

「頭のいい人の理屈ねえ……」

 それが出来る人は公式そのものを忘れないし、忘れるような人はそれを出来ないと思われる。忘れた上で、試験中という限られた時間内に公式を導き出せ、それを使って試験問題を解けるのならば、数学者になれるであろう。

「それが出来れば苦労しねーよ……なぁ、菖蒲はどうなんだ?」

「どうって?」

「どうやってこんなややこしいの覚えて解いてんだ?」

「と言われても……気合入れて覚えれば忘れないからねえ」

「参考になんねえ……」

 首だけを180度回し、皐月から顔を背ける獄楽。それを見た名楽は呆れ顔であった。

「お前なあ……こん中で一番成績いいのは菖蒲なんだぞ」

「地頭がいいのは羌子と姫だと思うけど」

「えー、そんな事ないよぉ」

「んじゃ私らに勝ってる菖蒲はなんなんだよ」

「私がいいのは記憶力と要領。地頭とはまたちょっと違う分野」

 それを聞いた極楽の耳がぴくりと動き、皐月の方へと再度顔を向けた。

「要領がよくなれば勉強が出来るようになるのか? どうやったらよくなるんだ?」

「うーん…………小さい頃から差別主義者と鬼ごっこに勤しむとか? 命懸けだから嫌でも要領はよくなるわよ?」

 予想斜め上な答えに固まる三人。だがさすがに慣れて来たのか、今回は解凍までの時間は短かった。

「それ、要領悪い奴は生き残れねえだけじゃね?」

「そうとも言うわね」

「今時そんなのまだいるんか」

「ちょっと前だとたまーにいたわねえ。どいつもこいつも『お前の存在は形態間平等を侵害している!』とかほざいて襲い掛かって来たわ。ああいうのってどっかで情報が回ってるのかしら」

「形態間平等をはき違えてるとしか思えんな」

「だから皆捕まってたわ。ひょっとしたら同じ組織のメンバーだったのかも」

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