07話 南極人の真実は結局謎なのかな?
「南極から来た、ケツァルコアトル・サスサススールさんです」
教壇の横、担任教師の横に立つ転校生は南極人である。女子用の制服を着てバッグを手に持つ南極人である。問答無用に完全無欠な南極人である。有体に言うと、二足歩行の蛇だ。
「皆さんと学ぶべく、南極から来ました。よろしくお願いします」
首から上は蛇そのものであるにも拘らず、意外にも人間そっくりの声だ。しかも服の通りに女性の声である。外国人特有の訛りもない。
「私服警官がやたらと多かったり、校内にまで入り込んでると思ったら……」
「羌子の予想、外れたな」
「いやこれは予想外でしょ……」
「な、南極人……」
「別に取って食われはしないから」
君原が少々怯え気味だ。彼女は幼い頃、南極蛇人を怪物役にしたB級ホラー映画を見て以来、南極人に対して少々トラウマがあるのだ。蛇人が人馬のヒロインを丸のみにしてしまう、という内容のせいだが、本物の南極人は蛇と違って顎が外れないし、体格も人馬より小さいため物理的に不可能だ。
「質問はキリないと思うから後でね」
即座に挙げられた手を、予想していたと思しき早さで担任が牽制する。まあ確かにキリなどあるまい。
「ではケツァルコアトルさん、一番後ろの空いてる席に座って下さい」
体格はさほどでもないのだが、首から上がちょうど鎌首をもたげた蛇のようになっているので、その頭の位置は意外な程に高い。また、眼は大きく青く、驚いた事に額の上に三つ目の眼が存在する。
腰からは太い蛇の尻尾が伸びているが、地面に引き摺ってはいない。かといって、恐竜のように天秤棒方式でバランスを取っている訳でもない。完全直立二足歩行だ。
手は五本指で、一見哺乳類人と同じなのだが、平爪ではなくかぎ爪だ。ただしほとんど湾曲はしておらず、小さなカラーコーンといった風情である。細かい作業も可能そうだ。
頭と尾は、鱗で覆われているかと思いきやそうではない。ただ、目を近づけなければ分からない程度に、鱗に似た模様がある。質感は滑らかで、黒一色である事もあり、まるでビロードのようだ。
また、頭や尾とは異なり、腕や脚は哺乳類人と同じような感じの皮膚で覆われている。ただし、肌の色は哺乳類人にはありえない、薄い青がかった白に近い灰色だ。僅かに青みを帯びたコンクリートの色、というのが一番近いかもしれない。
「君原さん、席が隣同士だし、色々教えてあげてね」
そんな南極人を見ていた君原が、担任の言葉で完全に固まった。新しい机は隣なので当然なのだが、どうやらそこまで頭が回っていなかったようだ。微妙に引きつった顔のまま、一時限目の漢文の授業が始まった。
◆ ◆ ◆ ◆
途中ちょっとしたトラブルもあったが、つつがなく時は過ぎて昼休み。
「ケツァルコアトルさん!」
「は、はい」
「質問の続き、いいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
サスサススールが食事を終わらせたところを見計らって、クラスメイトがどっと押し寄せる。午前にも一度休み時間に質問はしていたのだが、その程度では足りぬとばかりに皆興味津々だ。
「はいはい並んで並んで。順番よ」
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