#16 本物の恋?
公衆の面前で大人として、女子としてとても恥ずかしい姿を晒してしまった。
ガラの悪そうな男達の嘲笑。知らない人が、遠巻きに此方にチラチラと投げ掛けてくる視線。弟まで、憐憫の目を向けてくる。
でもそれらは気にならなかった。聴こえていても耳には届かず、見えていても、見ていない。
正確には、彼に醜態を見られてしまった事がショック過ぎて、それどころではなかった。
(やだ……モンちゃん、見ないで……)
私は彼に恋している。でも、叶いっこない。愚弟の姉として知られているし、こんな醜態を見られてしまった。イメージは最悪。もう女性として見てもらえるとは思えない。
(お願いだから、嫌いにならないで)
地面にへたりこんでいると、すがるような想いとは裏腹に、無情にも彼の足音は遠ざかっていく。後ろを振り返り、呼び止める勇気はない。
あぁ、嫌われちゃった。
そう思ったら、どうしようもなく悲しくなった。
視界が滲んで、涙がポロポロ溢れてきた。よりによってこんな終わり方なんて、こんなの、あんまりだ。股間から漂う忌々しい臭気が惨めな気持ちに拍車をかける。
「その……お気になさらず、えー……こういうとき何と言えば……」
「ふう、やれやれ。なにやってるんですか、たっちさん。……ドンマイ、あー、ええっと……」
「ウルベルトさんだってロクなこと言えてないじゃないですか!」
「たっちさんこそ。妻子持ちなんですから、既婚者の余裕とやらを見せてくださいよ!」
たっちんもウーたんも、なにしてんのよ。慰めようとしてくれてたんじゃなかったの?
まぁ、そんなことされても、余計に惨めな気持ちになるだけだけど。ていうか、なにさっきの。気の利いたこと一つ言えないなら弟を見倣って黙ってて欲しい。
そう内心で舌打ちしていたとき、後ろから何かを被せられた。ローブだった。誰かに借りてきたのだろう。
「震えていたので、寒いんじゃないかと。……立てますか?」
「う、うん……」
涙を拭い、鼻を軽く啜りながら立ち上がる。
(これを探してくれてたんだ……)
ローブは大きく、全身すっぽり隠せる。余計なことを言わず、包み込んでくれるような然り気無い優しさに、胸が高鳴った。
馬鹿だな、こんなことで嬉しくなるなんて。
彼にとっては特別でもなんでもない、誰にでも見せる程度の、ただの親切に過ぎないのに。
その時、周りがザワ、と騒ついた。「へ、陛下」とか「リムル様」という声がする。
振り返ると、彼の大魔王が、何とも気まずそうな顔をして立っていた。そんな顔する位なら早く迎えに来てよバカ!
「あー、落ち着いて。この人達は俺が預かるから、皆は普段通りに戻ってくれ。……一旦、部屋に戻るか。疲れただろ?」
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