#8 真実を求めて
アーコロジーから少し離れた、廃ビルに囲まれた人気の少ない一画。そこにポツンと佇む人影があった。
「はぁ、緊張してきたな」
モモンガはガスマスクの中でため息を吐く。
世界は核戦争の影響で放射能に汚染され、ガスマスクと防護コート無しで外を出歩く事はまさに自殺行為だ。アーコロジーでは汚染を気にせず生活できるが、そこに住まうことができるのは一握りの富裕層だけであり、貧困層の彼は仕事で極稀に立ち入ることがあるだけだ。
鈴木悟、それが彼の現実の名前だ。リムルとゲーム外で会う約束のために、指定した場所で待っていた。時間より早めに到着する事が出来た彼は、リムルが来る前に話したいことを頭の中で整理しておく事にした。
リムルと会う約束をしたあと、その日は解散したのだが、翌日に『ユグドラシル』にログインしたときには、ディアブロとリムルは居なくなっていた。
二人が数日経っても姿を見せない事に、気になったギルドメンバー達がモモンガに尋ねてきた。
「実は、二人はプレイヤーだったみたいなんです。また戻って来てくれるかどうかは、わかりません」
その言葉を聞いて、皆驚き残念そうにしていた。彼らの脳裏には垢BANされた可能性も過っていたのだろう。
モモンガはリムルと現実で会うという事は伏せておいた。余計な心配はかけたくなかった。
出会ってからこれまで、二人は毎日必ずユグドラシルに居た。それまでは「かなり高度なプログラムを組み込まれたNPC」だと思っていたため、その事に疑問を持ってこなかった。
しかし、彼らはプレイヤーだったと知り、そこで改めて二人の異様さに気づく。
プレイヤーだとしたらログが残っていないのは何故なのか。通常誰もがその痕跡をログという形で残す。それに、プレイヤーは定期的にナノマシンを補給する必要があるため、常にログインしたままでいる事は不可能なはずだ。それなのに、モモンガの知る限り、二人が居なかった事は一度もなかった。まるでずっとユグドラシルに居続けていたかのようだ。いずれも常識的にはあり得ないハズだ。
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