ハーメルン
ご注文は家出人ですか?
第一話 終わりの始まりと始まりの始まり

――母親が病気で死んでから2年。今度は父親が殺された。

親戚もいない、完全に詰んだ高校生の僕はこれからどうなるのだろうか。

そんなことを考えていると、電話がかかってきた。

「もしもし」

「ああ、繋がった。児童相談所の者ですが――」

「養子縁組?」

「そう、君は高校1年生になったばかり。一人暮らししろと突き放すのも厳しいものだ。それに、君にはもう一人家族がいるだろう」

僕には9歳の妹がいる。

「里親がいた方が、将来的にも――」

「冗談じゃない」

すぐに電話を切った。
何が里親だ。血も繋がっていれば知り合いでもない。

見ず知らずの人に「買われる」なんてごめんだ。
それに――、いい人に当たればいいが、悪い人に当たってしまった暁には何をされるかわからない。

「逃げるしか……それしか方法がない」

逃げることを決意した俺――七瀬悠(ななせゆう)は、さっそく準備に取りかかった。
最初にお金。銀行の預金――と、言いたいところだが、せいぜい数十万程度しか見つからなかった。

「――これで暮らすのは無理があるか。まあいい、なんとかしてみせよう」

とにかく、この腐った街から出て行きたい。それしか考えていなかった。

また、電話がかかってきた。

「はい」

「警察です。このたびはお悔やみ申し上げます……」

「ああ、そういうの結構です」

正直、かなり腹を立てている。何がお悔やみだ。未だに殺人犯を見つけていないくせに。

「――。実は、容疑者の足取りが途絶えておりまして。未だどこに潜んでいるのかわかっていません。我々は捜索規模を拡大することにしました。それに、あなたがた兄妹の安全も確保しておきたい。つきましては、警察署の方に……」

「なるほど。わかりました。準備していきます」

当然、嘘である。安全確保とかいって、事情聴取するに決まっているだろう。それに、マスコミが家にやってくる可能性も大きい。

「何してるの?」

妹――里恵(りえ)がこちらにやってきた。

「今すぐ家を出る準備をしなさい。あんまり荷物は持っていけないから、必要なものだけにしてくれ」

「どうして、家を出るの?」

「このままここにいると、ろくでもないことになる。それに、殺人犯もまだ見つかっていない」

「…………」

「残りたければ残りなさい。でも、俺を信じるというなら……」

「わかったよ。よくわからないけど、ここにいたら面倒なことになるんでしょ?」

「ああ……。ありがとう」

最後に、携帯を初期化して電源を切り、バッテリーを抜いて部屋の奥に隠した。



帰宅ラッシュが終わったのを見計らって僕らは電車に乗った。

「行く宛てはあるの?」

「ない。とにかく、電車を乗り継いで遠くに行くんだ」

夜中に幼い女の子を連れた高校生が電車に乗っていたら不審がられるかもしれない。

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