第四話 お姉ちゃんが不在(後編)
「悠さんって文系の教科得意ですか?」
夕食の片付けが終わり、一段落した頃チノが悠に問いかけた。
「ああ、理系も文系もまあまあって言ったところか」
「文系だとココアさんが頼りないので、教えていただけますか」
「いいよ」
どうやらココアは文系が絶望的という。
勉強全般が出来なさそうな雰囲気をしているが、どうやら理系は得意らしい。
そんな話をしながら、チノの高校入試の対策は進んでいく――。
「――それで、徳川慶喜は朝廷に政権を返した。これが大政奉還ってやつだ」
「すごいです、みるみる問題が進んでいきます!」
里恵はチノの部屋にあったパズルに夢中だ。これ以上ないくらい集中している。
「あの……確か悠さんって高校生でしたよね。学校はどうするんですか?」
「俺もそのことは困っていてな。まあ自分で勉強して高卒資格とればいい話なんだけど……。お金もないし」
「いいんですか、高校生活って貴重ですよね」
「まあ、そうだけど、俺はラビットハウスで働いてるほうが楽しいさ。それに――」
この街はとてもきれいで温かい街だ。
もともと住んでいた薄汚くて冷たい都会とは違い、何もかもが生き生きとしている。
――すべてが輝いているのだ。
「――?」
「いや、なんでもない。とにかく俺のことより問題集進めていこうぜ」
「――はい。あっ、明日は休日ですし、街の案内もかねてココアさんが割ったカップを買いに行きたいと思います」
「何してるんだあの人は……」
ココアらしいといえば人聞きがいいかもしれないが、ラビットハウスは客も少ない喫茶店、カップの補充にお金を使っていたら破綻するのではないだろうか。
そして翌朝。シンプルな朝食を取り終えて、早々に出かける支度を済ませる。
「この場所、とても眺めがいいんですよ」
最初に連れてこられた場所は、丘の上にある見晴台だった。
この辺にカップを売っている場所があるらしい。
「空気が澄んでて気持ちいい!」
「あ、あの……悠さんはここの坂で自転車の練習しようとか言い出さないんですね。ちょっと安心しました」
「この坂で何があったんだ!?」
どうせまたココアが無理難題を押しつけてチノを振り回したのだろう。
そんなことを思ってると、目的地である店の前に着いた。
「ふぁぁ……このForme……」
「おい、なんかやべえ奴がいるぞ……」
店に入るとカップをなでながらにやけている明らかに「アレ」な人がいた。
「あ、シャロさん」
「なんだ、知り合いだったのか」
ココアの知り合いはともかく、チノの知り合いでアレな人がいるとは、ちょっと驚きだった。
「チノちゃん……?その人はまさか――」
「うちの新人さんです。ココアさんから聞きませんでしたか?」
「あ、ああ、そういえばココアがそんなこと言ってたわね」
「七瀬悠です。あと、妹の里恵です」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク