第六話 優しさ
ラビットハウスに戻ってきたが……気まずい……。
気のせいか酸素が薄くなっているような気がする。
草木も眠る丑三つ時――。
ものすごい雷雨だった。さきほど甘兎庵から帰ってきたときは晴れていたのに。
雷の音や光がやかましいせいか寝られない。
「あの……悠さん。起きてますか」
チノの声がした。こんな夜遅くにどうしたのだろうか。
まさか――さっきロリだのなんだの煽ったからその仕返しに――!?
「あ、ああ……」
短く返事をすると、チノが部屋の中へ入ってきた。
「夜遅くにすいません。外がうるさいせいか眠れなくて」
「俺もそんな感じだ」
窓の外を見ると、時折まぶしく輝きながら、風や落雷の振動で窓がガタガタと揺れる。
「っていうか、眠れないならココアの部屋に行ってくれ……またロリコンだと勘違いされそうだ」
「その……ロリコン、が何の意味かはわかりませんが、ココアさんならもう寝てました」
「そうか……」
いかん、かなり気まずい――。このままだと窒息死してしまいそうだ。
「――よかったら私に、家出した理由を話してもらえませんか。あまりここにいると、父や母が心配しますよ。ここはかなり田舎ですから、探すのも大変でしょうし」
「――――」
「あ、ココアさんたちに話すつもりはありません。ですから――」
「――――。さっきチノさ、親が心配するって言ってたけど」
「はい」
窓に向かって息を吐いて大きく深呼吸する。
「――俺と里恵に親はいない」
「――え」
さすがに死因が殺害なんて言ったら明日から里恵や俺の扱いはどうなるかわからない。だからそこだけは伏せておいたが、すべての事を話した。
「だから、なんでもやり放題。ってところさ」
「私も母親がいません。祖父もティ……いえ、他界してしまいました。だからこそ、悠さんの気持ちはわかります。でも、どうしてすべてを捨ててここまでやってきたんですか。どうしてそこまでする必要があったんですか」
「――――」
一番聞かれたくない質問を投げかけられた。
これだけは正直に答えるわけにはいかない。この場所を守るためにも。
「――失礼しました。無神経なこと言ってしまいましたよね。忘れてください」
「できれば、これ以上詮索しないでもらいたい。チノやここのみんなを巻き込みたくはないんだ」
「――わかりました。ですが、一人で抱え込まないようにしてください。何かあったらいつでも相談にのりますから」
「――ああ、ありがとう」
その優しさが何よりもうれしかった。
だが、生まれてきて家族以外の人を信用してきたことはない。
『信用』とはなんなのか。それすらわからなくなっていた。
何をどうすれば、チノを信用することができるのか。
何をどうすれば、この場所で楽しく生きていけるのだろうか。
今まで、友人関係を保つための「表向きの信用」しかしたことがない俺に、本当の信用とはなにか、どうしたらそれが得られるのか、などわからない。
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