ハーメルン
ハリー・ポッターと野望の少女
第4話 入学式

 ハンナと呼ばれた少女は恥ずかしそうにしながらもそのテーブルに着き、はにかんだ。

「ボーンズ・スーザン!」
「ハッフルパフ!」
「ブート・テリー!」
「レイブンクロー!」
「ブラウン・ライナー!」
「開拓地に移ってもらおう!」
「ブルックルハースト・マンディ!」
「レイブンクロー!」

 次々と名前を呼ばれ、生徒達が寮のテーブルへ移動していく。
 その度にテーブルからは歓声が上がり、上級生達の拍手が鳴り響いた。
 性格で寮を決める、という事はかなり偏る年もある、と考えられる。
 恐らく何人生徒を取れるかも、寮にとっては重要な事なのだろう。

「ベレスフォード・ミラベル!」

 ミラベルの名が呼ばれ、前に歩み出る。
 その瞬間、あれほどの喧騒が嘘のように収まり、広間が静まり返った。
 ゆっくりとした足取りで椅子に向かうその少女から、誰もが目を離せない。
 コツン、コツン、と歩くその音がやけにハッキリと響き、その洗練された動作の一つ一つが見る者を釘付けにする。
 何だ? 何なのだこの沈黙は? 何故皆黙ってるのだ?
 誰もがそう思い、しかし誰もが言葉を発せない。全員が少女の発する異様な雰囲気に呑まれてしまっている。

「…………」

 マクゴナガルはゴクリ、と唾を飲む。
 椅子に向かっているだけだというのに、何だこの威圧感は。
 これは本当に一年生が発している空気なのか?
 ……時折、この手の生徒が存在する事は知っている。他と違うカリスマ性とでも呼ぶべき物を備えている生徒は確かにいる。
 例えば……そう、例えば『彼』のように……。

「……っ!」
「ダンブルドア校長? ど、どうしました?」

 『彼』を連想したのはマクゴナガルだけではなかった。
 ダンブルドアは思わず身を乗り出し、その少女を凝視する。
 いや、正確には少女を通して50年も前の光景を幻視していた。
 まさか、と思う。彼女は『彼』ではない。血筋も含めて全く無関係の別人だ。
 だがそれでも彼女を通してあの最悪の魔法使いを視てしまった事に、ダンブルドアは少なくない悪寒を感じた。
 何かの間違いだ、と思いたいが心のどこかが否定する。

(……どうかしておる。あんな娘にトム・リドルの……ヴォルデモートの面影を見るなど……!)

 異様な沈黙に包まれた広間の中、ミラベルは椅子に座って帽子を被る。
 それは、ただの椅子のはずだ。
 木造りの、何の変哲もないそこらにある椅子。
 しかしそれを見ていた全員はほんの一瞬、その椅子がまるで玉座であるかのように誤認した。
 ただ座るというだけの動作一つすらが『王』を感じさせたのだ。

(……これは……何ということだ……)

 組み分け帽子は、苦渋に満ちた声を出す。
 それは帽子を被っているミラベルだけに聞こえるものであり、他の誰にも帽子の苦悩がわからない。
 しかし今、彼は紛れもなく苦しんでいた。造られてより今まで前例のない出来事に苦悩していた。

(思考が、まるで読めぬ……!)

 それは、ミラベルの強大過ぎる自尊心が作り上げた心の防壁だった。
 自分以外の他の誰にも心を許さず、心を明け渡さぬと言う自己愛の壁であった。

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