第5話 平穏の裏に潜む牙
ホグワーツの授業初日における遅刻率は4割を超える。
その原因となっているのは校内の複雑怪奇なギミックの数々だ。
142もある階段は無駄に広い壮大なものから狭い階段、金曜日にはいつもと違う所に繋がる階段、真ん中で一段消える階段など様々だし、扉も丁寧にお願いしないと開かない扉や正確に一定の場所をくすぐらないと開かない扉、扉に見えるだけの固い壁、など無駄にバラエティに富んでいる。
肖像画の人物もしょっちゅう訪問しあっているから目印に使えないし、ポルターガイストのピーブズは生徒達に悪戯を仕掛けては楽しむのでこれも遅刻増加の原因に一役買っている。
だがそのピーブズは今、これまでにない最悪の生徒と対面していた。
ゲシ、と後頭部を強打されてピーブズは無様に床を転がる。
痛みに呻く暇もなく、蹴りをくれた少女が彼の元まで歩み寄り、その頭を鷲づかみにして持ち上げた。
実体を持たぬポルターガイストであるはずなのに当たり前のように掴まれているという事実は彼を混乱させるには十分だったと言えるだろう。
「おいポルターガイスト、貴様この私にゴミをぶち撒けるとはいい度胸だな。
そんな素敵な貴様にはこのミラベル手ずから褒美をくれてやろう」
「あ、あの……何で君、私に触れるの? ……あ、いや、触れるのですか……?」
ギリギリとピーブズの頭を締め付けているのはスリザリンの一年生、ミラベル・ベレスフォードだ。
彼女がピーブズを掴めている理由は魔力の付与によるものだ。
確かに人の手はゴーストやポルターガイストに触る事が出来ないが魔力は別だ。彼女は魔力“そのもの”を掌に集める事でピーブズを掴んでいるのである。
杖を使わずに魔法を使う術を心得ているミラベルだからこその裏技だが、勿論そんな事を親切丁寧に教えてやる義理などない。
「喜べポルターガイスト。丁度貴様にぴったりの魔法をこの前図書館で見付けたのだ。
貴様はとてもいい実験台になる」
「え……ええと……その呪文とは?」
「邪気を祓う呪文だ。ゴーストなどを退散させる時に使うという」
……ゴーストの天敵呪文!?
普通ならばゴーストを追い払うだけの呪文だが、そんなものを鷲づかみにされてるこの状況で、零距離で撃たれたら結構洒落にならない。
ピーブズは慌てたように逃げようとするがガッチリ掴まれた頭はビクともしなかった。
その怯える彼へ、非情な宣告が呪文名と共に下される。
「エクスペリアニマ!」
白い閃光がピーブズの頭を焼き、身体をビクビクと痙攣させる。
流石にゴーストですらないピーブズを殺す事は出来ないがそれでも効果は抜群だ。
いや、訂正しよう。殺す事は出来ないが、昇天させてしまう事ならばあるいは可能かもしれない。
ピーブズは狂ったように身もだえし、必死に逃げようとしている。
「あばばばばばば!? やめてー!? 昇天しちゃうッ、昇天しちゃうからー!?」
「いいぞ、いっそ逝ってしまえ。ポルターガイストがこの呪文で消えるというなら実に興味深い」
「た、助け、助けて! もう悪戯しないから!」
これは実験だ。
本来ゴーストを追い出すだけの呪文を零距離で浴びせた場合、果たしてどこまで威力の上昇が見込めるのか。
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