第6話 才能の格差
「今日の飛行訓練こそ僕が待ち続けていた授業だよ。いやまあ、僕に訓練なんか必要かという疑問はあるんだがね。
何せ僕はクィディッチが大の得意でね。もし一年でクィディッチ・チームの代表選手になれるのなら絶対にスリザリンを優勝させる事が出来るのに。いや、本当に残念だよ」
木曜の朝、朝食を取っているミラベルの耳に入ってきたのはマルフォイの得意気な声だ。
彼はいかに自分が優れた箒乗りであるかを懇切丁寧に周囲に説明しているがミラベルにとってそんなものはどうでもいい。
今重要なのは朝食をいかに味わって食べるかだ。
イギリスの料理は不味いというのが定説だが、その中にあって朝食の評価だけは悪くない。
小説家のウィリアム・サマセット・モームは「イングランドで美味い物を食べようと思ったなら朝食を三回食べよ」という言葉を残しており、ミラベルはこれを至言であると考えていた。
「僕は幼い頃から箒に乗っていてね。よく近所の皆と一緒にクィディッチをしたものさ。
勿論僕はいつでもエースでシーカーさ。スニッチを見付けるのはいつも僕が最初だったし、ブラッジャーに当たった事だって一度もない」
まず固く焼いた目玉焼きをフォークで切り、一口食べる。ジャパニーズソースこと醤油がないのが不満だがそれでも不味くはなかった。
卵のまろやかな味をゆっくり楽しみ、次にソーセージ。
焼いたそれを歯で噛み締めればパリッとした表面が破けて肉汁が口内を満たす。
しっかり飲み込んだ後はカップを手に取り、ミルクを入れた紅茶を一口飲んで気分を落ち着かせる。
これだ。これこそ朝食というものである。
「あれは去年の事だったかな。僕が箒に乗って空高く飛び上がるとそこに偶然マグルのヘリコプターが迫ってきたんだ。
マグルってのはあんなでかい鉄の箱を用意しないと空を飛べない不自由な生き物らしいね。
僕はそのヘリコプターを咄嗟に避けた! まさにぶつかる寸前、ギリギリってやつさ。
ぶつかるかと思ったかだって? ははっ、まさか。動きが止まって見えたね」
次にイチゴジャムを塗ったトーストを取り、咀嚼。いかに料理が雑なイギリスであってもパンの味はそう変わらない。
イチゴジャムの甘味とパンの味がいい具合にマッチし、舌を楽しませる。
だがこの素晴らしい朝食だというのに心から楽しめないのは余計な雑音が混じってるからだろう。
ミラベルは額に青筋を浮き立たせて席を立ち、二つ隣の席……マルフォイの後ろへと移動する。
そして彼の髪を鷲掴みにして引き抜くくらいに引っ張った。
「フォイッ!? ベ、ベレスフォード、何を……!?」
「マルフォイ、自慢話ならどこか他所でやっててくれないか。せっかくの朝食がマズくなる」
モノを食べる時は誰にも邪魔されず自由で救われてなければ駄目なのだ。
唾を飛ばして大声で話したり、ふざけながら食べるのをミラベルは食事と認めない。
それは料理という人類の英知に対する大いなる冒涜だ。例え神が許しても自分が許しはしないだろう。
ミラベルはマルフォイを無理矢理自分の方に向かせると、その金色の瞳を鋭く細め、睨みを利かせながら言う。
「……黙って食ってろ……それが出来ないなら潰す……いいな?」
「…………わ、わかった」
後にマルフォイは語る。「あの眼はマジだった」と。
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