第十幕 カナの誕生日 後編
レモンラテ。
名前のとおり、レモンイエローを強調したデザインの店内。
小学生から高校生までの少女たちを顧客とした、洋服ブランドの店である。
ブランド店といっても、ターゲットの客層は子供。中には高価な商品もあるが、大半の品物が子供のお小遣いで買える手頃な値段設定のものが多い。
今は特に、中学生女子の間で人気のあるブランドである。
「凜子先輩、これなんてどうです?」
「これは……ちょっと派手よ。私には似合わないわ」
「そんなことありませんよ、絶対に似合いますって!」
カナが清継の電話をとってから、30分ほどが経過していた。
彼に話したとおり、カナと凜子の二人はレモンラテの店内で商品を物色していた。
仲良く楽しげに会話を紡ぎながら店内を見て回っているが、商品手に取る彼女たちの動作はどこかぎこちない。
それもその筈。彼女たちがこういった「流行のお店」に入るのは、なにせこれが初めてのことだった。
普段からファッションに無頓着なカナは、適当な店で適度に洋服を見繕い、凜子にいたっては洋服店に入る機会すらないなかったのだ。
白蛇の血の力で商売人として成功している凛子の家はかなり裕福である。どれくらい裕福かというと、彼女の家には専属の洋服屋が出入りすほどであり、そのため、わざわざ店先にまで赴いて洋服を選ぶ必要がなかった。
だからこそ、カナと来たこのレモンラテが白神凛子にとっての、初めての洋服屋デビューとなる。
しかし、そもそもの話。何故そんな彼女たちが、こうして二人でこんなブランド店に足を運んだのか?
話は今朝にまで遡る。
カナが学校に登校し、そのまま教室に行こうと廊下を歩いていたときに、凜子がカナを呼び止めた。
彼女は少し申し訳なさそうに、カナに向って、「流行のファッションを教えて欲しいと」口にしてきたのだ。
凛子はカナに助けられ、半妖としての自分を受け入れられて以降、少しづつ前向きになり始めていた。
以前は自分から距離をとっていたクラスメイトたちとも、軽い世間話くらいをするようになり、少しづつ周囲との壁を取り払っていった。
ところが、クラスメイトの女子たちが話している今時のファッションや流行といった話に、凛子はまったくついていくことができず、そういった話になるといつも言葉を詰まらせる。
これまで友達付き合いを拒否し、衣服なども洋服屋に見繕っていてもらったツケが回ってきたのだ。
そして、このままでは不味いと思ったらしく、凛子は同じ年頃の女子であるカナに助けを求めてきたのである。
しかし、カナもその問いに言葉を詰まらせていた。
彼女自身もそういった流行に疎いため、どう言葉を返せばいいのか分からなかったのだ。
色々と悩んだ末、カナが思い出したのが、このレモンラテの存在である
少し前に駅前にできた洋服ブランド店。クラスメイトの下平が話していたのを彼女は思い出した。
カナは凜子の手を取り、こう尋ねていた。
「――先輩、今日の放課後空いてますか?」
そうして、彼女たちはこの店にやってきたのだ。
今時の女子中学生の――流行とやらを知るために。
「このスカートなんてどうです?」
「ちょ、ちょっと短いと思うけど……」
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