第十八幕 生徒会選挙・急
「さ、三分経った! 清継くんの言ってた時間だ!」
体育館外で待機していた清十字団の一員である島。彼は清継の指示を律儀に守り、渡された腕時計の針から目を離さず時間を測っていた。そして彼が指定した時間、ちょうどリクオの応援演説が終わる時間帯がやってきた。
この時間になったら体育館へ突入し、リクオを襲う。それが、妖怪役と与えられた自分の役割。
そのために、こんな妖怪の着ぐるみを纏ってまでずっと準備をしていたのだから。
「『計画は時間通りに実行する』って言ってたからな。お金もかけてるし。でも、恥ずかしいな……」
だが、中一という微妙なお年頃の少年にとって、この格好のまま衆目に前に出るのはかなりの勇気がいる。清継の影響で、それなりに妖怪に関する知識や興味が芽生えた彼でも、恥ずかしさ全て拭いきることはできない。
しかし――それでも、やらねばならないときが男にはあるのだ。
「えーい、ビビるな! これも清継くんに当選してもらうため、それに――及川さんにカッコいいところを見せるチャンスっす!!」
何よりも尊敬する清継に生徒会長になってもらため、そして――憧れの女子・及川つららに自分のカッコいいところをアピールするために。
島は一年二組の女子・及川つららに恋をしていた。
一目惚れだ。初めて会った瞬間から、島は彼女に夢中なのだ。何故など考えたこともない。ただ、彼女への一途な愛が、島という少年の心を鷲掴みにしていた。
その愛は、捻眼山で他の女子たちが入浴しているのを覗くチャンスがあったにもかかわらず、つららが妖怪探索に出かけるからという理由から棒に振るうほど。(つまり!! 他の女子の裸を覗くという不健全な行為よりも、つららと一緒に健全な探検に行くことの方が彼にとっての優先事項!!)
そんな彼にとって、清十字団の活動をつららと共に過ごすことができる時間は、まさに至福。
サッカーU‐14日本代表の彼がサッカー部の活動を休止してでも、清十字団の活動に精を出す半分以上の理由が、つららのためでもあった。
しかし最近は、何かとリクオがつららと仲良さげにしている姿が目に留まる。島はリクオのことが友人として好きではあったが、この恋だけは譲るつもりはない。
つららを巡って繰り広げられる、この恋の争奪戦を制するためにも、この場でガッチリと彼女の♡を掴む必要があった。
『――やったね島くん! すっごくカッコよかったよ!』
「えへへへ……さあ、行くっすよ!!」
この生徒会選挙で圧倒的な活躍を見せた自分を、褒めてくれるつららの姿を妄想しながら、彼はいざ体育館へと突入する。
「? なんか騒がしいな」
自分が登場する前だというのに、何やら騒がしい館内。だが、島は脇目も振らず、ステージの真ん前――全校生徒が注目しているであろう、体育館の最前列へと躍り出た。
「ガォ――! 俺が妖怪だ!! この学校は俺が支配するぞ――!!」
決まった!! と心の中で自身の渾身の芝居に酔い痴れる島であった――だが、
『グオオオオォォォォォォォォゥッ――!!』
「え……? うぇえええ――!? 何これっ!?」
自身の後ろ。ステージの壇上の上で吠え猛る巨大な犬の化け物に島は悲鳴を上げる。
作り物の着ぐるみや、立体映像などではありえない。
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