第二幕 幸運を呼ぶ白蛇
カナはそのまま目を閉じ、凛子の手を握ったまま――
「冷たくて気持ちいい…」
と、静かにそのようなことを呟いていた。
――気持ちいい? 自分のこの鱗が?
たとえどんな人間でも、この鱗を見れば自分を気味悪がり、拒絶すると思っていた。
現に今まで、凛子はそのような好奇な視線に晒され続けてきたのだ。
だが、この少女はそんな凜子の鱗を受けいれ、あまつさえ気持ちいいとまで言ってくれた。唖然と、何も言葉を返せないでいる凜子に、カナはさらに話を続ける。
「先輩、知ってますか? 白蛇の鱗に触れると、幸福になれるっておはなし……」
「え、ええ……」
戸惑いながらも頷く凛子。勿論知っている。その言い伝えの張本人こそ、凜子の曽祖父、今ここにいる白蛇なのだから。
――なんでいまその話を?
そう疑問に思った凛子だが。次のカナの発言に彼女は言葉を失う。
「これで、私もきっと幸せになれます――」
「――ありがとうございました」
「――っ!」
その言葉で、凛子の思考は完全に停止していた。
何故、この少女はそんなことを言ってくれるのだろう。
何を想い、自分の手を取ってくれたのだろう。
気がつけば、凛子の視界はぼやけていた。
気づかぬうちに、彼女は涙を流していたようだ。
たまらず嗚咽をもらし、子供のように泣きじゃくる凜子。
カナは何も言わず、黙って凜子の手を握り続けてくれている。
そんな二人の少女を――優しい瞳で白蛇がただ静かに見守ってくれていた。
「もうこんな時間ですね…」
その後、凛子は涙が枯れるまで泣き続け、さらに時間が経過してから、何気なくカナが呟いた。既に日も暮れ、夜になっていたことに気づき、彼女は重い腰を上げる。
「もう帰らなきゃ…」
「――えっ?」
カナの言葉に、凜子は落胆を隠せないでいた。
――もう……お別れなの?
まだカナと話がしたい。
もっと彼女のことが知りたいと、そう思ったからだ。
「さようなら 先輩!!」
しかし、別れたくないと視線で訴えかける凛子に、カナは笑顔で手を振る。
そして、サヨナラの後に続く『再会を約束する言葉』を彼女は口にしていた。
「――また、明日学校で!」
「あっ……そうか、そうだよね……」
その言葉でハッと我に返る凛子。
そうだ、また明日会えばいいのだ。
そのときにもっと彼女と話そう。
自分のこと、彼女のこと。
「ええ、また明日……」
凛子はやや戸惑いながらも、作り物ではない、心からの笑顔を浮かべ、手を振り返す。
カナを見つめるその瞳に、先ほどまでの怯えの色はどこにもなかったのであった。
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