ハーメルン
家長カナをバトルヒロインにしたい
第四幕 陰陽師・花開院ゆら

 妖怪の主『ぬらりひょん』が住み着いているという噂も頷けるというものだ。

「陰陽師の娘が友達とは……三代目も相当な好き者だね」
 
 窮鼠が変身を解き、ホスト風の人間の姿に戻りながら呟く。

 ――三代目?

 相手の言葉の意味が理解できず、ゆらは首を傾げる。その間、窮鼠は自然な動作で堂々とゆらへと近づいてくる。
 
「そんな物騒なものはしまいなよ……可憐なお嬢さん」
 
 目前まで迫った窮鼠が営業スマイルを浮かべながら、馴れ馴れしくゆらの頬に触れようとしてくる。
 ゆらは、窮鼠のその腕をおもいっきり引っぱたいて払う。

「……触るな、ネズミ」
 
 手を叩かれた窮鼠。一瞬ものすごい形相でこちらを睨んだが、すぐに気を取り直したように、彼は不敵な笑みを浮かべる。

「たいした力だが――所詮子供は子供だな」
「……?」

 窮鼠の勝ち誇ったような台詞にゆらは眉をひそめた。その直後――


「――きやああああああああああああっ!!」
 

 突き刺すような悲鳴が、後ろから聞こえてきた。
 ゆらが驚いて振り返ると、いつの間にか、何十匹もの小さなネズミたちがカナを一斉に取り囲んでいた。

「やめ!? その子は関係ないやろ!!」

 ゆらは窮鼠に向かって叫ぶ。
 家長カナはただの一般人だ。自分たちのようなものの戦いに巻き込むべきではない。
 だが、そんなゆらの意見を窮鼠は鼻で笑う。

「ふうん……僕の美貌に気を取られて、守るべきものを忘れてしまったんだね」

 窮鼠の言葉にゆらはハッとなる。
 勿論、奴の美貌とやらに気を取られていたわけでは決してない。
 しかし、奴の言葉通り、目の前の敵に集中するあまり守るべき存在である筈の彼女のことを失念していた。
 自分の不注意によって生まれた結果に、自己嫌悪に陥るゆら。

「じゃあ……式神をしまってもらえるかな?」

 窮鼠は嘲るような笑みを浮かべ、冷酷にゆらに要求してくる。

 式神をしまう。それは敵前で丸腰になるということ。本来であれば、呑むことはできない愚考の要求であった。
 しかし――

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 ゆらはカナを見る。
 彼女は体をガクガクと震わし、体中から汗を噴きだしていた。胸を抱え込むように苦しげに喘いで、忙しなく息をついている。
 昼間のときと同じ――いや、それ以上にまずい状態だ。
 ゆらは悔しがりながらも、静かに決断を下すしかなかった。
 
 ――戻れ、貧狼……。

 巨大なニホンオオカミの式神が消え、札の中へと戻っていく。
  
 パンッ!!
 
 間髪入れず、ゆらの体に痛みが奔る。
 式神をしまい無防備になったゆらの頬を、先ほどの仕返しだとばかりに窮鼠が引っぱたいた。
 ゆらはその意識を闇に沈めていく中、窮鼠のその言葉を確かに耳にしていた。

「――お前ら、丁重に扱えよ。こいつらは大事なエサ、なんだからな。くくく……」

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