ハーメルン
家長カナをバトルヒロインにしたい
第六幕 お見舞いに行こう!

 浮世絵中学校の屋上――家長カナと花開院ゆら、二人の少女の姿がそこにあった。

 すでに時刻は夕方。授業も終わり、多くの生徒たちが忙しなく動き回る中、二人の少女は特に何をするでもなく、心地よい風に髪をなびかせ、そこから見渡せる景色を漠然と眺めていた。

「………家長さん、ごめんな」
「えっ?」

 不意に、ゆらが謝罪の言葉を口にする。
 ゆらは心底申し訳ないといった表情で、カナに向かって頭を下げた。
 
「怖い思いさせてしもうて、私に、もっと力があればよかったんやけど……」
「ううん、ゆらちゃんのせいじゃないよ! 気にしないで」

 昨日の自分たちを狙った、ネズミ妖怪たちの襲撃。
 ゆらはカナを守りきることができず、みすみす敵の罠に掛かってしまった自分の不甲斐なさが許せない様子だった。
 まるで、この世の終わりだといわんばかりに、今日一日、ずっとこんな調子で落ち込んでいる。
 そんな気落ちするゆらを励まそうと、カナは必死に言葉をかける。

「本当、気にしないで……もとはといえば、私が変に取り乱しちゃったせいで………ごめんね、ゆらちゃん」
「そんなことない!! 私がもっと周りを見てれば、あんなことには!」
 
 カナは自分が足を引っ張ったと主張するも、その意見を否定し自身の観察力不足を指摘するゆら。
 お互いがお互いに、自分を卑下して相手を庇う。
 そんな空気にますます気まずくなり、うつむく二人の少女。

 話題を変えたほうがいいと感じたカナは、自分が気になっていた『彼』の話を振ることにした。
 
「それに………妖怪は確かに怖かったけど、あの人は……わたしたちを、助けてくれたんだよね?」
「………」

 あの人、百鬼夜行を率いて、自分たちを助けに来てくれた『彼』。
 カナは四年前にも一度、彼に助けてもらったことがあった。
 その四年ぶりの再会に、カナの胸の内を何とも表現し難い、暖かいものが満たしていく。

「怖くない妖怪だっているのかもしれないね、ゆらちゃん?」

 陰陽師であるゆらにこんなこと言うのはどうかしてるとカナは思ったが、彼女にも分かって欲しかった。
 昨晩のネズミのように、人を襲う悪い妖怪だけではない。『彼』やリクオのように、人に危害をくわえるだけではない、良い妖怪もたくさんいるということをゆらにも知ってほしかった。

「…………」

 しかし、ゆらはカナの言葉を肯定も否定もしない。
 黙り込み、何かを決意するように式神の入った札を凝視していた。

「あっ! こんな所にいた!!」

 そこへ、聞き覚えのある声が響き渡り、二人が振り向く。
 屋上の入り口に、友達の巻と鳥居が立っていた。
 カナとゆらを呼んだ鳥居に続いて、巻がどこかめんどくさげに彼女たちに用件を伝えにきた。
 
「清継くんが呼んでるよ!! 清十字怪奇探偵団の会議だってさ!!」



×



「――皆、集まったようだな!」

 いつものように、清継がどこか偉そうに話しを切り出してきた。

 彼は教室に集まった清十字団のメンバー全員を見渡せるよう、教壇の上に立っていた。
 ご丁寧に、黒板にはデカデカと『清十字怪奇探偵団会儀』と書かれている。

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