令嬢→レーシェン
薄暗い森の中を必死に駆ける若い女がいた。
美しい茶髪を持つ彼女は目元に涙を浮かべた顔を何度も背後に向けながら走り続ける。来ているドレスは枝などに引っかかって所々破れかけており、髪や顔、ドレスが土に塗れていた。
どこかの貴族だと思われる令嬢は好きでこの森にいたわけではない。自分の家族が所有していた領地に住み込んでいる農民の一部が突然怪物になり、あっという間に人間の数が減ってしまった。領主一家は領地を捨て、馬車で避難しようとしたが、元人間の怪物たちに襲撃された。横転した馬車から投げ出された令嬢は家族の安否を確認せず、痛みを耐えながら付近の森に逃げ込んだ。
それで怪物から逃げられるはずはなく、背後から迫る怪物たちの追跡を振り切ろうとした。息苦しく、全身の痛みが残る、それでも怪物に捕まったあとの事を考えればまだマシだ。
いきなり、彼女の体は宙を舞った。
その状況に理解できない令嬢だったが、直後に地面に叩きつけられた。何とか立ち上がり、走ってきた方向を見ると、地面から木の根が盛り上がっていて、それに引っかかったようだ。
その根をパキっと踏み潰す怪物の脚。それを見た令嬢は体を震わせて見上げる。
筋肉質の体と牛の顔を持つミノタウロス、肥満体型の豚の頭のピッグマン、全身が毛に覆われている人狼、それらの三体が血まみれの得物を持って、令嬢を見つめていた。
鬼ごっこはおしまいだ。
そう言ってるかのように恐ろしく笑っている怪物たちは一歩ずつ令嬢に迫る。追い詰められる令嬢は恐怖に染まった声を上げながら、後ろに下がり、手が石に触れてはそれを掴んで投げつける。
怪物たちは余裕で避け、わざと武器を掲げては令嬢を怖がらせる。
下がり続ける令嬢の背に何かが当たる。振り向くと、一本の木が立っていた。
絶体絶命。
令嬢の頭の中にそう浮かんだ。前を振り向けば、牛、豚、狼の怪物たちがすぐそこに……
……
…………
……………………
森の中に一人の令嬢が横たわっていた。生きているが悲惨な状態だ。
怪物になった人間は殺し、同胞だった人を食す、犯すことをためらわない。これは怪物になったことで人間時に抑えられた欲望が解放されるからである。怪物に変えられても理性を保つ例外は存在するが。
三体の怪物に犯された令嬢は体を震わせるが、起き上がろうとしなかった。自分の初めてを怪物に奪われたこと、陵辱の衝撃で精神はボロボロだ。このままでは、別の怪物にマワされるか、殺されるだろう。
そんな彼女に鞄を携えた人影が近づく。
一見繊細な鎧と仮面を身につけた女性だが、虫と人形を組み合わせたようなヒトデナシだ。薄緑に染まった複眼を横たわる令嬢に向け、その場にしゃがむ。
「大丈夫……?」
ヒトデナシは声をかけるが、令嬢は返事をしない。何度も体を揺すり、肩を軽く叩いても無反応。彼女の状態を察したヒトデナシは目を閉じ、首を横に振る。
立ち上がって去ろうとした時だった。
「ま……って……」
かすかな声に振り向くと、令嬢がこちらに手を伸ばしていた。両目に涙を浮かべて。なんとか口を開け、声を出す。
「おわ……らせ……て……このまま……は……いや……」
それを聞いたヒトデナシは、彼女が苦しみから解放されたがっていると考える。腕に畳まれている鎌で首を斬り裂き、楽にすることはできる。
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