悪魔と化しても姫を取り戻す女騎士
人間の時代は終わりを迎えようとしている。
女騎士が忠誠を誓った王の言葉だった。
呪い、災い、病、悪しき魔法……それらによって怪物に変えられた人間たちが王都にも現れた。兵団や騎士団の多くは元凶を倒しに遠征に出ており、残りの者と民間のギルドの者が民を守るために戦った。しかし、人間以上の能力を持ち、殺した人間を怪物に変える性質により、人間たちは無残に敗北した。
その場で戦っていた女騎士は王と姫を守るよう命令されて王城に駆け込んだが、城の中も兵士と怪物の死体が転がっていることで「手遅れかもしれない……」と思ってしまう。幸い、生き残りの怪物はいないが、死んだ者が怪物として蘇るかもしれない。女騎士は廊下を走り、王の間へ向かう。
王の間には姫とその側で倒れている王がいた。周りには多くの死体が散らばっている。
すぐさま駆け寄った女騎士は二人の安否を確かめた。
「私は大丈夫です……お父様が……」
そう答える姫はドレスが少し破れているだけで無事だ。しかし、彼女の父親である王の方は意識はあるが、大量の血を流していた。女騎士が手当しようとするが、王は首を弱く振った。
「私は手遅れだ……じきに怪物となり……お前たちを襲うだろう……そうなる前に……」
その言葉に女騎士は理解した。死体が怪物にならない方法を彼女を含む騎士団は教え込まれている。人間として多くの仲間を死なせたのは少なくない。
それでも、自分の手で王を殺すことは躊躇ってしまう。姫も泣きながら拒否する。
「嫌です! お父様と分かれるなんて……私は……」
「人間の時代は……終わりを迎えようとしている……それでも、お前たちは生きろ……たとえ身が異形となろうとも……心は保ち続け……」
「お父様……」
「娘を……頼む……」
女騎士にそう告げた王は目を閉じ、それから動かなくなった。姫が何度も揺さぶり、声をかけ続けたが、やがて泣き出してしまう。女騎士はしばらく項垂れていたが、泣き止まない姫を王の亡骸から優しく離し、王を人として死なせた。
「さようなら……お父様」
主を失った王城から立ち去ろうとする女騎士と姫。だが、そんな二人の行く手を阻む者が現れた。
廊下を走る女騎士と姫の前に、背を超える長さの剣を持つ男が現れた。人とは思えない血まみれの男に女騎士は剣と盾を構え、姫を背後で守る。
「さて、騎士様。そのお姫様をおじさんに渡せば、騎士様も安全な場所へ案内するぜ」
「貴様は何者だ……人なのか?」
「その皮をかぶった奴、かな? ま、強引に攫うがな!」
そう言った直後、男は駆け寄った。
剣と剣が弾く戦いを姫は女騎士が勝つことを信じて見守るが、女騎士を防御を崩されてしまい、その隙に腹を鎧ごと貫かれてしまう。
剣と盾を手放し、男の剣を引き抜かれた腹を抱えながら倒れる。父を失い、瀕死の親しい者を目にした姫が彼女に駆け寄るが、男に捕まった。
「離しなさい! 人でありながらもっ!」
「ギャーギャー言ってなさいな。それじゃあ騎士様、姫様を魔王に会わせに行くからな。また戦おうぜ」
抵抗する姫を担ぎ上げて去っていく男の背に片腕を向ける女騎士は死んてしまった。
――――
王の廊下に転がる女騎士の死体。これも世界の仕組みによって怪物として蘇ろうとしている。
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