ハーメルン
ダイヤのA×BUNGO
第十二話 雨の中の観戦者


「久しぶりね、沢村君」

 新幹線を使わなければならないほど遠く離れた地元から東京へとやってきた沢村栄純は駅まで迎えに来た高島礼に仏頂面を向けた。

「2ヶ月、3ヶ月そこら会ってなかっただけで久しぶりな感覚はねぇっすよ」
「確かにそうね。でも、挨拶として必要な事だから覚えておきなさい」

 今は11月、以前に会ったのは8月下旬頃なのだから沢村の言う通りだろうと認めつつも礼儀があると説く。

「いいじゃん、別に」
「こら、栄純! ごめんなさい、高島さん。私まで一緒に来て」

 どちらかと言えばおおらかな田舎で暮らしていた自覚がある沢村は失礼だとは承知しつつも、元からの性格は変えようがないので適当な返事をしたところで幼馴染である蒼月若菜に後頭部を叩かれる。

「いてっ、叩くなよ若菜」
「アンタが失礼なのが悪いのよ」
「いいのよ、蒼月さん。あなたが今日のことを覚えててくれて助かったわ」
「私もまさか忘れて寝ているとは思わなくて。それに寝ぼけてる栄純が1人で東京に行けるかも不安だったから」

 事前に連絡があって約束は交わしていたものの、見送る為に沢村宅を訪れた若菜がすっかりとド忘れして爆睡していた沢村を叩き起こして連れて来てくれたことに高島は感謝しかない。

「秋季大会の3回戦なんだろ? 入学するんだからわざわざ見に行かなくてもいいんじゃ」
「もう! 敬語!」

 タメ口で馴れ馴れしい口調の沢村の後頭部に持っていた傘の柄でガツンと一発。

「あだっ!? だから、痛いって言ってるだろ!」
「地元じゃないんだから礼儀を弁えなさい!」

 バチコーン、と追加で大きな音を立てるほどの張り手は流石に痛いだろうなと高島も思ったが、沢村のタメ口には思うところが多くあったので若菜を止めることはしなかった。

「夫婦喧嘩はそこまでにして、球場に向かいましょう。ただでさえ遅れてるのに、これ以上遅れたら試合が終わってしまうわ」
「なっ!?」
「へ?」

 高島の揶揄い交じりの本音に、若菜は顔を真っ赤にしたものの沢村は理解できていない様子。

「話なら向かう途中で出来るしね」

 少年少女の青臭い恋事情に首を突っ込むほど野暮ではない高島が先導し、彼女の車に乗り込んで秋季大会の3回戦が行われている江戸川区球場に向かう。
 運転席に座るのは当然ながら高島、助手席に若菜が座り、残る沢村は必然的に後部座席で窓に肘をついて外を眺める。

「こんな雨の中でも試合してんすか?」

 窓を叩く雨は決して強くはないが一定頻度を守っており、投手目線としてはボールを投げ難いだろうという考えが沢村にそう言わせていた。

「うちの中学では練習試合とかは雨降ったら即中止だもんね」
「高校野球のスケジュールはあまり余裕がないから、もっと雨が強くならない限りは中止にはならないわ」

 若菜の言うように練習試合は雨が降って行う理由はなく、理由のある公式戦では殆ど1回戦負けだった沢村にとって雨が降った場合の試合は未知の領域にある。

「こんな雨の中だったらボールも滑るだろうし、エラーばっかのつまんねぇ試合になってなきゃいいけど」

 雨が降るとボールが滑り易くなるのは知っている沢村からしてみれば、プロ野球などは観ずにやる専門なので雨の中でもまともにプレーするイメージを抱けない。

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