第十三話 クリス塾
試合の経験が薄い石田文悟の為に御幸一也が発案し、滝川・クリス・優が主導して開催された野球教室が今日もクリスの部屋で開催されていた。
「本当にクリス塾はタメになる」
一軍投手陣の中では一番最後に塾生となった丹波光一郎はそう言ってメモを取る。
講師は当然ながらクリスが行い、サブとして御幸が補助するこの塾に一軍投手陣は必ず集まるが最上級生というプライドが足を遠ざけさせていた。
「だから、その名前は止めろと言っているだろう」
秋大会で自身が怪我をしたこともあって残る投手陣に迷惑をかけてから下らないプライドに固執することを止めた丹波の発言にクリスが顔を顰める。
「いいじゃないか、クリス塾で。分かり易くて俺はいいと思うぞ」
「そう言うなら宮内。自分の名前が使われた時のことを考えてみてくれ」
「御免蒙る」
ムフー、と特徴的な鼻息で応える宮内啓介の答えにクリスは発案者の御幸を見る。
「なんなら御幸塾に」
「いやぁ、俺も手伝ってますけど一番の先生はクリス先輩だし。なあ、文悟」
「何時もクリス先輩のお蔭で助かってます」
「しかしなあ」
クリス自身、講師をすること自体を厭うている訳ではない。
寧ろ人に分かりやすく説明する為には、自身がより理解していなければ出来ない。必然、塾を始める前と比べれば理解度は更に増していた。それでも気恥ずかしいことには変わりないのだが。
「人徳ですよ。御幸塾だと貫禄ありませんから」
「ほう、言ってくれるな川上」
「事実だろう?」
「確かに」
「文悟よ、そこは否定してくれ」
ツッコミを入れた丹波に文悟がオチをつけて一頻り笑う面々。
川上憲史が言った威厳云々はともかくとして、丹波などは相性が悪い御幸が主導していては絶対に来るはずがない。その反面、入学時から図抜けていた同学年のクリス相手ならば素直に教えを乞える面倒臭さが丹波にはあった。
「実際、性格悪いからな御幸は」
偶に冷やかしにやってくる倉持洋一が茶々を入れる。
「誰が性格悪いって?」
「ここにいる腹黒キャッチャー」
指差しまではしなかった倉持の発言を態と曲解して御幸は自分以外の捕手達を見る。
クリスは尊敬してる人だから駄目。
宮内は年上なので一応遠慮する。
となれば、残るのは同学年の小野だけ。
「だってさ、小野」
いきなり肩を叩かれて話題を振られた小野弘がビックリして御幸を見る。
「人に自分の称号を押し付けるところが腹黒いってことに気付け」
「しかも選んだのが断らなそうな小野の辺りが畜生さを感じさせるし」
丹波と川上の両投手のツッコミに御幸は思いっきり違うところを見て知らんぷりを決め込む。
文悟が青道に入学してから育成プランなどで話す機会が多くて御幸の本性など百も承知なクリスには意味の無いことであった。
「御幸が腹黒なのは今更なことだとして」
「ちょっ、クリスさん!?」
別に裏切りではないが接していた時間が長いだけに否定ぐらいはしてほしかった御幸が立ち上がる。
「諦めろ、御幸。お前が腹黒だというのは、みんなの共通認識だ」
「そんなっ!?」
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