ハーメルン
ダイヤのA×BUNGO
第六話 紅白戦


 石田文悟と御幸一也が二軍の練習に合流して2週間後の日曜日。

「相変わらず日曜日になるとギャラリーが凄いな」

 青道高校野球部の専用グラウンドの外に両手の指では足りないギャラリーが詰めかけてきているのに文悟が気づいた。

「OBや記者やら色んな人が見に来てるんだってさ。田舎に居たんなら、こんなに人に見られることに慣れてないだろ。緊張してないか?」

 Aグラウンドの片方のベンチに座りながら言った文悟に、シニア時代から注目されることに慣れている御幸が意地悪気な顔をしながら訊ねる。

「ほら、寝れなかったとか、怖くて体が震えるとか」

 二軍の練習に合流し、入学式を終えた時点で御幸一也と石田文悟の仲は大分変わっていた。
 同じクラスになり、二軍ではお互いだけが1年なことと投手と捕手の関係なこともあって人は良く連れ立って行動するようになったことで気安い関係と言えた。

「全然、不思議と落ち着いてるよ」

 薄らと笑みを浮かべ、緊張するどころか闘志で燃えている文悟の眼に御幸もニヤリと笑った。
 そこに主審を務めることになる片岡監督がやってきた。

「石田、御幸」

 座っていた文悟が立ち上がり、御幸と並んで立つ。

「スターティングメンバー表の通り、御幸は捕手として試合に出てもらう」
「覚悟は出来ています」

 スタメンに選ばれた御幸は、この機会(チャンス)を確実に獲得する為に目をギラつかせて答える。
 一つ頷いた片岡監督が次に文悟を見る。

「石田は試合の展開に関わらず7回からだ。準備は怠らないように」
「はい!」

 肺活量に見合った大きな声を間近で受けた片岡監督が僅かに顔を顰めたが何も言うことはなかった。
 去って行く片岡監督の背中を尻目に御幸は文悟に向けてVサインをした。

「スタメンに選ばれるってことは俺の方が期待されている証拠だな」
「俺だって出場は確約されてるぞ」
「でも、7回からだろ」
「むうぅ……」

 片岡監督からどれだけ期待されているかは2人にははっきりと分からない。しかし、スタメンに選ばれた御幸と途中からの文悟ではやはり前者の方が期待されているように見える。

「おい、1年坊主共。ビビってねぇだろうな」
「伊佐敷先輩」

 二軍の中で一番一軍に近いと言われている伊佐敷純が試合前に様子を見に来た。

「もう直ぐ関東大会のメンバー登録発表がある。まだ1年のお前達にはピンと来ねぇだろうが、俺達にはこの紅白戦は大事なアピールの場なんだ。足だけは引っ張んじゃねぇぞ」
「それはこっちの台詞ですよ」
「何だと?」

 真っ向から言い返した御幸の発言に、伊佐敷がピクピクとこめかみを引くつかせている理由が怒りであるのは明白。
 御幸の性格をこの2週間で知悉していた文悟は関わりにならないように知らんぷりをする。

「俺達だって上に行く為に必死なんです。例え一軍であろうとも負ける気はありません」
「へっ、言うじゃねぇか」

 巻き込もうとしている御幸に文悟がそっと離れようとしていると、嫌いじゃない物言いの仕方に機嫌が良くなった伊佐敷が首に腕をかけてきた。

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