ハーメルン
手には弓を 頭には冠を
ガンズ・オブ・ザ・パトリオット

――あの事件は結局何だったんだろう?

 
 ロイドの語りが始まった。私の求めにすぐには答えず、どうやら彼にも私と話したいことがあるのだとそれでなんとなく理解した。
 私は黙って聞いて、それに答える準備が必要だった。

「2014年――つまり、君も参加したあの事件が終わってすべてが一変した。
 大国が夢見る超人兵士計画の、リアルな一歩となったとまで賛辞されたSOPシステム。兵士を、部隊を、戦場をコントロールするデジタルの魔法。
 君を苦しめ、おとしめたあれは完全否定される欠陥品として扱われてしまった。

 ナノテクノロジーと最新の脳科学によって兵士を、より優れた兵士に。より優れた部隊とするやり方は、いつの時代にも求められたものだが。それが現実に近づくと。今度はその技術には絶対に適合できない体質の人間たちを生み出す悲劇となってしまった。そうだ、あのシステムは完璧ではなかった」
「ええ――その中のひとりがこのわたしだった」

 いろいろと理解はしていても、自然とその言葉には皮肉の色が混じってしまう。
 愛国者として、女性兵士としてより高いものを求めた若かった自分が失望されたのがまさにその一点にあった。
 そして私は、あまりにもあきらめがわるく、しがみついた。無残な最期を迎える日まで希望を捨てなかった。新年さえあればきっと戦い続けられると信じていた。

「だが君は知らないだろうな。ここ数年、軍のなかで再びSOPシステムの見直しをすべきだという声がまた上がってきていることを」
「――へぇ、それは知らなかったわ」

 これは嘘だ。
 だが、もう以前ほど心を乱されることはない。もう、私には関係ないことだから。

「陸軍と海兵隊は、21世紀に入ってから世界規模の戦闘であろうことかテロリストのテクノロジーを前に膝をつくと言う醜態を何度も繰り返してきた。
 ”愛国者”と呼ばれる存在が関わった事件の全解明はなされなかったが。関係が深いとされる非人道的実験の成果を、今更だが生かさない手はないという考え方だ。彼らはあんな結果でも、ないよりはましだと考え直したらしい」
「ひどいものね」
「その通りだ――だがそれもこれも、その始まりはあの前回の大統領選の結果だともいえる。そうだ、結局は政治だ」
「……」
「長らくこの自由と資本主義を支えてきたはずの2つの党が。国民の前に提出してきたのは同性から支持されない元大統領夫人という女王様と。金融界の荒波をホラと度胸で乗り切ってきた男とで選ぶとはね。ブラックジョークにしたって、あまりにもひどい」
「大統領批判?それなら素直にTVをつけたらいいじゃない。こっちじゃ、それも見れないんだけど?」
「――そうスネなくていい。
 見るべきものは今だってないさ。支えるつもりのない議会と騒がしたいだけのTVは、ことさらに大きく問題を見せようとするが。あんなコメディーでも堂々とやり切って見せた大統領だなのだ。平然とした顔で、自分の仕事をただやっているし。彼はきっとやりきるだろう」
「今の大統領には朗報ね」
「ところがそうでもないんだよ、ジェシカ」

 ロイドは画面の向こうで自重の笑みを浮かべた。

「我々ドレビンズの活動の第一の目的は、力を失った国際連合に新たな息吹を吹き込み。再び世界をまとめ上げる力を与えることで、人類の社会が持つ戦争というシステムを抑制しようとするものだった。

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