ハーメルン
手には弓を 頭には冠を
我らは違う

 今朝の化粧は何やらノリが違った。
 メアリーから譲られたジャケットにシャツ、ジーパンは驚いたがぴったりだった。彼女、見た目と違って着やせするのだろうか。肉付きも似たものがあるらしくきついと感じる部分が全く、ない。

 最後にハンガーに残されていたカウボーイブーツと帽子を手に取ると、鏡の中には立派な田舎のカウガールが立っている。中身は保安官なのに?これは笑える。バイトと称して、この姿でスプレッドイーグルでウェイトレスをすれば良かっただろうか。

 だがこのカウガールがこれから向かう先は教会である――。

「どうやら前線に復帰、ということかな。保安官」
「カウガールとして気分を一新してね――それで、ジェローム神父。なにかあるの?」

 会話が交わされる間も、床の上では怪我人たちが横になり。痛みにうめき声をあげ、忙しく患者たちの間を行き来する女たちに助けを求めて手を伸ばし、慈悲を乞うていた。

 私がひっくり返っている間にも敵と味方の怪我人たちはここに運ばれ、平等に治療を受けている。
 賢いやり方とは全く思わないが、だからといって皆に自分を見習ってペギーは降伏を許さずに殺せと強要するわけにもいかない。私だって実のところ、そこまで血に飢えているわけでもない。

「ジョンに動きはないが、ペギーは今もホワイトバレーでの人や資産の回収を進めている。こちらはといえば、彼らとはまだ戦うことはできない。
 我々はプレッパー探索の任務を続けているが、それとは別にある計画を用意しているんだ。保安官、あんたにはこれを手伝ってもらいたい」
「いいわ。説明して」
「うん、話はこうだ。ペギーから抜けたいと連絡が家族に入った。彼らは自分たちの手に余ると考えてレジスタンスに協力を願い出た」

 いきなりこれか……。
 思わず大きく息を吸ってから吐き出す。冷静になる必要があった。

「――罠じゃないの?悪いけど素直にそんなことを信じる気にはならないわ」
「まぁ、確かにそう思うのもしょうがないだろうね。だが、許しを求めるものに助けの手をさし伸ばすことは決して悪いことではない。ジェシカ保安官、これは私の敬愛する神の言葉でもある」
「善人でいたいというあなたの意志は理解するけど、甘いんじゃないの?
 例の一件を蒸し返すわけでも、あなたを責めるつもりはないけど。ペギーは敵よ、そしてそれに関わるってことは血が流れるわ」
「嫌なら――」
「そうじゃないけど、話を簡単にしすぎやしないかって疑問があるのよ」

 こちらの慎重さを、余計な考えで否定されていると思われているのではないかという苛立ちに、言葉尻が荒くなる。
 すると待ってましたとばかりに神父の顔に笑みが広がった。

「それが逃げ出した彼の理由は実に簡単だから、信じる気になった。あんただよ、保安官」
「私?」
「ジョン・シードを苛立たせ、怒らせた君を見て考えを変えたんだそうだよ。言ってみれば、君のファンになった」
「あー、なんてこと。悪夢を見てるみたい」
「そこまで嘆くものでもないさ。こっちへ」

 教会の入り口からグレースが荷物を持って入ってくる。

「元気そうじゃない、保安官」
「ありがと、グレース。なにか持ってるみたいだけど?」
「あなたの新しい武器よ。ジョンにすべて奪われてしまったでしょ」

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