1話
無事とは言えないが弟を解放することに成功した紅魔館のメンバー達は今、一つの部屋に集まりその顔を歪ませていた。理由は言わずとも分かるだろう、アルクの精神状態についてだ。
上の部屋に連れていった後も何かに怯えるようにブルブルと震えており、レミリア達はアルクが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥っている可能性が高いとみていた。
自分達がもっと早くあのゴミ虫達を殺せていれば、力を制御出来ていれば、もっと仲間を集められていれば。後悔は次々と脳内に駆け巡っていく、しかしそれは考えていてもしょうがないことなのだ。当の本人はかなり快適に地下室暮らしをしていたし、震えていたのはボロが出ないようにするタダの演技なのだから。
「レミリア、これからどうするの」
「どうもこうもないわ、アルクの住みやすい環境をこの紅魔館に作ることが最優先事項よ。何かお世話をしてあげるときは咲夜、貴方に頼んだわよ」
レミリアは鎮痛な表情を浮かべるが一瞬で紅魔館の主としての顔になり指示を飛ばした。
「はっ!私の命に変えても!」
「フランは、何が出来るかな」
不安げな表情を浮かべる妹に対しては優しい口調で語り掛ける、妹もまた弟と同じように自分の大切なものだと思っているから。
「貴方はあの子の話相手をしてあげて?私では威圧感を与えてしまうかもしれないから」
「うん、でもお姉様も来てね?絶対アルクもその方が嬉しいと思うから」
「わかったわ」
肯定しながら思考を巡らす、まだなにか出来ることがある筈だと。
「私は何かやることはある?」
「パチュリーは精神を安定させるマジックアイテムを作ってあげて、その場しのぎにしかならないけど無いよりマシだから」
「それぐらいならお安い御用よ」
そこまで指示を出した後にレミリアは一息着いた、長年の悲願を達成出来た喜びと、この紅魔館の一番の宝を壊された怒りで目に見えて疲労していた。それに気づかない他のメンバー達では無い。
しかしレミリアならば自分を気遣うくらいならその分アルクに優しくしてあげろと言うのは明白だったので何も言わなかった。
全てを振り払うように大きく息を吐いたレミリアは考え始める。まずはこの幻想郷で何か精神的な傷の治療に詳しいやつを探すことを決めた。心を治すという行為は生半可な気持ちでは到底不可能だ。優しくされてしまうと逆に自分を責める者まで居ると聞く。
アルクは今何をするときが一番癒されるのだろうか、その為ならなんだって叶えてやる、外で走り回りたいというのなら太陽すら堕としてみせようではないか。それ程までに私達スカーレット姉妹はアルクを愛しているのだ。
「レミリアお嬢様、弟君の様子を見てまいります」
「ええ、分かっているとは思うけど刺激しないようにね」
「はっ!」
固くなる従者に対して心配をしつつ、適任はこの従者しか居ないとも考えていた。
「あのさ…私も行っていいかな」
「フラン、いきなり無理をしなくてもいいのよ?話し相手になるのはもう少し先でも…」
そうだ、妹がそんな無理をする必要は無い。一番上である姉が本来する仕事なのだそれは。
「アルクに伝えておきたいことがあるんだ、だからお願い」
「…ふう、わかったわ」
そんな真っ直ぐに目を見られると折れてしまう、私の悪い癖を見抜いているよく出来た妹だ。
[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク