ハーメルン
スカーレット家長男の憂鬱
8話

──何が正しいかなんてどうでも良かった。

弟を救うためにレミリアが最初に捨てたのは情けだった。冷徹に、冷酷に、冷静に。目的の為ならなんでも殺した。
親も、同胞も、罪の無い赤子でも。正しいか間違ってるかでいえばレミリアは間違いなく間違ってる。踏み抜き、踏み外し、落ちていくだけのそんな自分の一生。それでも弟に会いたかった、会って話して遊んで、姉として接したかった。

それなのにあいつは、八雲紫は私からアルクを奪った。何でも持っている筈の八雲紫がだ。私はアルクと紅魔館以外何も持ってない、なのに何故私の唯一のものを奪っていくんだ。アルク以外ならなんでもくれてやる、でもそれだけは、その子だけは譲れないんだ。アルクから直接出ていく旨を言われたなら納得しよう、だが連れていくのだけは許さない。アルクを渡さないというのなら私は何処までもこの強さに、堕ちていく。

どれだけ身を滅ぼそうとも、魂を削ろうとも、私はここで戦わなければならない。だが無情にも今まさに八雲紫の攻撃が私の右腕を吹き飛ばした。ほかのメンバーは九尾の従者にボロボロにやられている。そしてフランも私と同じような状況だった。

───同情の目がこちらに向けられていた。

パチュリーもどうやら向こうについたようだった。そりゃあそうか、こんな不甲斐ない友に味方する訳が無いものな。そして何やら首飾りのようなものをつけられる、絶対服従のマジックアイテムか何かかと思いながらも抵抗できるほどの気力も無い。フランは暴れているようだが九尾に拘束され身動きが取れなくなってる。

そこにパチュリーが近づいて首飾りに触れる、するとフランからふっ、と表情が抜ける。そのすぐあとにポロポロと泣き出した、どうしたのだろうか、もう諦めるしかないと思い抵抗はしなかった。そして私の首飾りにも触れた。


私は頭の中から何かが消えたのがわかった、その何かの正体もまた同様に。すると自然に涙が溢れてきた、溢れて溢れて、拭えども止まらなかった。喜び、悲しみ、怒り、後悔。様々な感情が一気に押し寄せてくる。
そうして無様にも泣いていると、八雲紫の家の障子が開き。そこには

───探し求めていたものがそこに居た

「レミリア姉様、フラン姉様。お話があります」

少し驚いたが、まっすぐアルクの顔を見る。罵詈雑言だろうが私は受けなければならない。この子に求めていた劣情や邪な妄想はいくら狂気のせいとはいえ許されるものでは無いだろう。今はなんでもいいから私を罰して欲しい、殴っても蹴ってもいい。どうか、傷をつけて欲しい。

「『僕』はこの八雲紫さんの家に少しの間居させてもらうことにします」

当たり前だな、そんな気持ちが去来する。フランも同様に沈痛な面持ちでアルクの顔を見ている。たしかに紅魔館に帰って来てくれる可能性は低いと思っていた。

「僕は姉様達に醜く嫉妬していました、なんで僕だけこんな目に遭わなきゃいけないんだと。そんな自分が大嫌いです、今も」

そんなこと当たり前に考えることだ、何も気にしなくていい。事実なんだから。私達がもっとちゃんとしていればそんなことにならなかった筈だ。そう言いたい、けどそれを言ってしまえばアルクの覚悟を邪魔してしまう。

「だからこそ、ここで一から自分を見つめ直そうと思います。まだ紫さんの式になるつもりは無いですし、どうなるかわからないですけど。スカーレット家の長男として胸を張って帰ってこれるように努力します!」

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