8話
そう言ってアルクは笑った、久しぶりに見るアルクの笑顔だった。それを見た私達はたまらずアルクに駆け寄り抱き締めた。切なくて、寂しくて、悲しい筈なのに、嬉しかった。また笑顔を見ることが出来た、なんの混じり気もないまっさらな笑顔を。
「たまには帰って来てくれる…?」
「うん、約束する」
「ごめん、ごめんねぇ…!」
「姉様達が僕に謝る必要は無いよ」
こうしてこの騒動は幕を閉じた。けしてハッピーエンドとは言えない、けれどみんな泣くのをやめて前を向き始めた。それは些細な事だが意味のあることなのだろう、少なくとも当人達にとっては。
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よく眠ったと思って起きたら勝手に話が進んでた件について。え?嘘でしょ?
あの後起きたら紫さんが泣いていて、どうしたのか聞いたら俺がここに住むことを決めてくれて嬉しいなどとほざきやがったのだ。
俺は否定することなどもちろん出来ず、曖昧な感じに頷くことしかできなかった。
藍さんも良く自分の口で言ったな、偉いぞと言い出す始末である。藍さんの式の橙に至っては弟が出来て嬉しい!とか訳の分からんことまで言い出した。まともなのは俺だけか…!
そんな俺は今藍さんに尋問のようなものを受けている、辛い。
「ここに住むにあたってとりあえず何が出来るかを聞いておこう。アルクは家事などでこれが得意とかあるか?」
自炊したり家事は全般的に出来るんだ、凄いだろ。
「多分全般的に出来ないことは無いと思います…」
「ほう、料理も出来るのか」
少し感心したような顔でこちらを見る藍さん。ふふん、もっとちやほやしてもええんやで?
「まあ本職の方や主婦の方などには及ばないと思いますが…」
「それならばこれから覚えていけばいい、基本さえ出来ていれば上々だ」
ところで尻尾の毛並み綺麗ですね、何か特別なことしてらっしゃる?
「は、はい」
「…あと、もう一つ」
「なんでしょうか…?」
いきなり尻尾で絡め取られる、毛がモフモフで有り体に言って天国だ。俺はここが幻想郷か…と思いつつその感触を享受する。
「お前はもうここの家族だ、好きなだけ甘えていい。もちろん私以外でも大丈夫だ。あ、紫様に甘える場合は一回伺えよ?」
「は、はい」
「ん、いい返事だ」
顔を手でグッと向き合わせてからニコッと笑う藍さん。並の男ならあれで一生魅了にかかっていただろう。恐ろしく速い優しさによる攻撃、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「じゃあとりあえず晩飯の準備を始めるとしようか」
「で、では、具材を切りますね」
前世では男料理バンザイだったから切るのは得意だ。カレーも具がゴロゴロしてる方が好き。
「いや、今日はそこで座って見てくれていたらいい、お前の歓迎会でお前が料理を作ったと紫様に知れたら私が叱られてしまう」
「あ、ありがとうございます」
そう言って藍さんは白菜や鶏肉や白葱を切っていく。え?何を作っているかって?
───鶏の水炊きだ
紅魔館では洋食しか出てこなかった。当たり前だろうな、あの舘の様子で晩飯に肉じゃがでも出てきたら景色に合わないだろう。
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