ハーメルン
【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル
第二話 災禍の予感

 惑星ニルン。タムリエル大陸の北方、スカイリム。
 この極寒地方のヘルゲンという街の近くが、坂上健人が迷い込んだ場所だった。
 知らない惑星、聞いたことのない大陸に国名。さらに彼を茫然自失にさせた二つの月。
 次々に明らかになった事実を前に、健人は自分が今どこにいるのかを、嫌が応にも理解させられた。完全な異世界である。
 ただでさえ理解困難な事態に直面し、追い討ちを掛けるようにオオカミに襲われた健人だが、偶然その場に駆け付けた男女に助けられ、なんとか事なきを得る。
 それから三か月。怪我は完治したものの、異世界という全く知らない世界に放り出された健人だったが、今はこのヘルゲンの宿屋を経営している夫妻の世話になりながら、何とか生活していた。
 言葉の方も少しずつ習得し始め、簡単な会話ならなんとかやれるようになってきていた。

「ケント、地下の倉庫からハチミツ酒を十本持ってきてくれ。ホニングブリューのだ」

「すぐに持ってきます」

「ケント、そっちが終わったら調理場の方も手伝ってくれない? 今日はお客さんが多くて手が回らないの」

「分かりました」

 中年の男女に頼まれ、健人は蜂蜜酒を取りに宿の地下へと向かう。
 ティグナ夫妻。この宿屋を経営するノルドの夫婦であり、彼を助けた恩人の両親でもあった。
 夫のアストン・ティグナがお客の応対や帳簿の管理、妻のエーミナが厨房などの裏方を担当している。
 ノルドとは、タムリエル大陸に住む人種の一つで、極寒のスカイリムに適応した人々だ。
 元々ノルドの先祖はタムリエル大陸より北のアトモーラ大陸に住んでいたが、数千年前にその大陸から移住してきたらしい。
 彼らはがっしりとした体躯を持ち、寒さに適応した人種で、この極寒の地でも逞しく生きている人々だった。
 健人にとってこのスカイリムの寒さは、日本で経験した寒さとは比較にならないほどで、室内でも防寒着が手放せないほどだが、彼らノルドにとって、恵雨の月である今の季節は、寒さはかなり和らいでいるらしい。

「はー、はー。やっぱり寒すぎるよ……。手が凍りそうだ」

 宿屋の倉庫として使われている地下で頼まれた蜂蜜酒を探しながら、健人は毛皮のコートの中で身を震わせていた。
 常に火を焚いているホールと違い、暗い地下の倉庫はやはり寒い。
 吐く息を手にかけ、健人は手早く棚に置かれていた蜂蜜酒の瓶を取ってホールに戻る。
 ホールに戻ると健人は、宿のカウンターで客の応対をしているアストンに、持ってきた蜂蜜酒を届ける。

「持ってきました」

「ああ、ありがとう。カウンターの上に置いておいてくれ……って、ケント、これはブラックブライアの蜂蜜酒だ。頼んだのはホニングブリューの蜂蜜酒だよ」

「え? す、すいません! すぐに持ってきます!」

 健人はどうやらラベルに張られていた文字を読み間違えたらしく、別のお酒を持ってきてしまったらしい。

「慌てなくていいよ。ホニングブリューのは棚の奥だ。持ってきたお酒はそのまま置いておいてくれ。どうせ使うだろうから」

「は、はい!」
 
 今一度地下倉庫に戻った健人は素早く棚の奥からホニングブリューの蜂蜜酒を取り出すと、すぐにホールに戻り、カウンターの上に持ってきた蜂蜜酒を並べる。
 このタムリエルには、共通の言語が存在するが、健人はまだうまくタムリエル語を話すことはできていない。当然ながら、文字もよく読めない。

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