処刑台への誘い 後編
溶鉱炉のエリアには、先ほどまで気配すらも感じられなかった鉄血の人形たちが一斉に現われ、あらゆる角度からスネークを取り囲む。
無数の銃口がスネーク一人につきつけられたが、処刑人が片手をあげると人形たちは銃を下ろした。
「会いたかったぜスネーク」
上階の手すりから飛び降り、処刑人はスネークの前に着地する。
灼熱の空気の中で彼女は一切汗をかくこともなく、青白い肌にはこの煤だらけの空間においても一切の汚れがない…青白い頬を若干赤く染め、目を細めて目の前のスネークをまじまじと見つめる。
「あの日からお前と再び会う日を願い続けてきた。スネーク、こんな気持ちは初めてだ…戦闘前の高揚感とも、勝利を手にしたときの充足感とも違うこのおかしな感情を確かめたかった」
己の胸に手を当てて困惑して見せる処刑人、普段の彼女を知るものからはとても想像もできない姿だろう。
うつむきながら微笑むその姿はまるで乙女そのもの、愛らしい表情で想いを打ち明ける処刑人であったがスネークは心を一切惑わせずじっと銃を向けたままだった。
「周りくどい方法だったかな? 直接会いに行ければ良かったんだが、ちょっとな…誤解しないでくれよ、面倒なやり方が好きなわけじゃない、むしろオレは積極的に動く方が好きだ。なあスネーク、オレはどうしちまったんだ? 自分でも戸惑ってるんだ、教えてくれよスネーク。オレはお前に何を期待しているんだ?」
「オレはこの場にスコーピオンを助けに来ただけだ、お前が何を思おうとこれっぽっちも興味はない」
「どうしてそんなことを言う、今はオレだけを見てくれよ…お前が来てくれた時何をしようかずっと考えてた、ただ殺しあうのじゃつまらない。せっかくのめぐり合わせなんだ、お互い最高の能力を発揮して命のやり取りをしたい。そう、それに邪魔者も必要ない…オレとお前二人だけ、二人で激しく熱い戦いをするのさ」
徐々に狂気を帯びていく処刑人は得物の巨大な剣の腹を指先で撫でつつ、なおも熱い視線をスネークにぶつける。
穏やかな笑みは徐々に彼女本来の獰猛な笑みへと変わっていき、それと呼応するかのように溶鉱炉の炎がマグマのように吹きあがる。
「あの時の感動をもう一度、勝敗なんてどうだっていい、最高の戦闘といこうじゃないかスネーク!」
ホルスターから拳銃を抜いた処刑人に、スネークはすかさず引き金を引いた。
素早い動きで銃弾を躱した処刑人は、床に亀裂が入るほどのすさまじ踏み込みで一気にスネークの懐へと飛び込むと、襟首を掴み後方に投げ飛ばす。
床を転がり衝撃を殺したスネークに彼女は笑みを浮かべ、混銑車につながれていた鎖をその剣で両断する。
支えを無くした混銑車は大きくぐらついて横転し、中から溶かされたばかりの高温の溶鉄が二人とスコーピオンの間を遮断する。
「これでオレとお前の舞台が出来上がった、心配するなよスネーク、部下には手を出させない」
「お前の望みはオレだけといったな、ならスコーピオンを解放しろ」
「んー? あいつを逃がしたらお前も逃げるだろ、そうはいかないぜスネーク。お前はここでオレと戦うんだ、どこにも行かせないし誰にも渡しはしないぜ!」
この期に及んで処刑人は無邪気な笑顔を浮かべる。
スネークのスコーピオンを一刻も早く救いたいという気持ちなどまるっきり無視し、ただひたすらに己の欲望のみを優先させる、処刑人の無邪気な表情をスネークは忌々しく睨みつける。
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