16話 排除するわ。必ず
『――自分は、あなたと敵対する魔法少女の勢力に属している。
しかし彼女とは違い、積極的に交戦する意思はない。
もしそちらに一片でも話し合う余地があるのならば、彼女とあなたの悪化している関係を軟着陸させる為、交渉を行いたい。
全ての意思疎通はこの端末によるメッセージにて行う。
2分以内に返答が無い場合、交渉の意思は無いものと判断する。』
――最初にホンフーの元へ送られたメッセージから、数秒後。
続いて映し出された文章は、纏めればこのような趣旨のものであった。
(交渉、ね……)
さて、嘘か真か。
ホンフーはゆったりと手を組み、甲の上へと顎を乗せる。
おそらく、この端末はジャンク品を独自に改造したものだろう。
通話機能が念入りに潰されているらしく、メッセージの送受信機能以外は搭載されていないようだ。
……つまり、デス・マスを用いた『交渉』は不可能。
明らかに能力の性質を見抜かれており、この警戒では対面する方向へ持っていく事も難しい。
(……端末の向こう。やはり、時間操作能力者と見るべきでしょうね)
この端末を届ける者と、メッセージを担当する者。二者に分かれている可能性は否定できない。
しかしホンフーには、これは時間操作能力者の独断であるという強い確信めいたものがあった。
それはある種の信頼であり、共感でもある。本当に、彼女がホンフーの求める能力を持つ者なのであれば――そう在らねばならないのだ。
(……乗るか反るか、悩む意味もなし)
ちらりと時計を見れば、メッセージが表示されてから既に一分が過ぎていた。
ホンフーは少しの間瞑目すると、一呼吸。
小さく笑みを浮かべると、ゆっくりと目前の端末に手を伸ばした。
*
(――乗ってきた……!)
ホンフーことバッドエンドの居るカフェより、少し離れた場所。
テナントビルの屋上にて、暁美ほむらは古びた端末に映し出された『了承』の二文字に目を細めた。
(……既に敵対している以上、期待は殆どしていなかったのだけど――)
驚愕と困惑。そして微かな希望。
様々な感情が胸中に渦巻き、瞳の奥に小さな波紋を作り出す。
しかしすぐにそれを鎮めると、端末を持ち直し。『印』によるバッドエンドの反応を逐一確認しつつ、固く抵抗感のあるキーを押し込み始めた。
――ほむらにとって、バッドエンドは何とも判断に困るイレギュラーである。
目的の分からない、魔法少女さえも害する殺し屋。そして非常に多彩な異能と、あの佐倉杏子さえも手玉に取る戦闘能力を持つという。
佐倉杏子と美樹さやかが敵対していなければ、トラブルを回避する立ち回りを心掛けていた筈だ。
ワルプルギスの夜が近いこの時期においては、時間的にも労力的にも無駄な消耗を強制する厄介事以外の何物でもないのだから。
……しかし同時に、彼の存在は得難いチャンスであるとも言えた。
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