EP.02[ライダーの資格]
「……ょう……翔、翔!」
「う……?」
慣れ親しんだ声を聞いて目が覚めた時、翔は見知らぬ場所で寝ていた。
真っ白な天井を見上げ、痛む側頭部を押さえながら身を起こす。革張りのソファの上で、毛布をかけられているようだった。
傍らには、安堵した様子の鋼作と琴奈がいる。彼らの顔を見て、すぐに思い出した。現実の世界とは違う奇妙な場所に飛ばされ、異形の怪物と邂逅した事を。
二人が無事である事に人心地ついたものの、翔の頭の中はまだ僅かに混乱していた。
「良かった、目が覚めたんだね!」
「鋼作さんに琴奈さん、無事で良かった……ここはどこですか? それに、兄さんは今どこに?」
訝しげに翔が周囲を見渡す。
室内にはテーブルと椅子が設置されており、白い壁にはモニターがかけられている。部屋の隅には赤い葉の観葉植物が飾ってあるのが見えた。
床は黒一色、掃除したばかりなのか塵一つ落ちていない。また、部屋に扉はあるものの、窓は見当たらなかった。
「それは……」
「質問には私が答えるわ」
声は女性のものだが、言ったのは琴奈ではない。扉が開き、そこから男女が一人ずつ姿を現したのだ。
発言をしたのは、黒いライダースジャケットとレザーパンツを着こなした茶髪の美女。その彼女の隣に並ぶのは、裾がボロボロになった白衣を纏う長身の男だ。
「あなたは?」
「私は滝 陽子。君が翔くん? そっちが沢村くんで、彼女が塚原ちゃんかしら」
「どうして僕らの名前を?」
「響くんから聞いたのよ」
三人は目を丸くし、それぞれの顔を見合う。そして、この中に陽子及び白衣の男との共通の知り合いがいない事を改めて認識し、再度翔が口火を切る。
「お二人は一体何者なんですか? 兄とどういう関係です?」
「私たちは『ホメオスタシス』。今日あなたたちが戦った怪人、デジブレインの脅威から人類を守るために活動してる組織よ。あなたのお兄さんもそのエージェントってワケ」
「そのデジブレインって……兄さんも言っていましたね」
「デジブレインは『サイバー・ライン』……あなたたちが迷い込んだ電脳世界に住む情報生命体なの。デジブレインはサイバー・ラインを通して人間世界に干渉する恐ろしい存在なのよ」
「いまいちよく分からないんですが、干渉って具体的にはどういう?」
それを聞くと、こほんと咳払いをしてから陽子は話を続ける。
「あなたたち、最近頻発してる精神失調症や神隠しについては知ってるかしら?」
「はい、良くニュースになってるので」
「じゃあその原因がデジブレインにあるって言ったら、信じる?」
「……どういう事です? ニュースじゃ原因は不明だって」
「それは表向きの情報。デジブレインはあの世界を介して人間世界のデータをジャックして自由に操る事ができるし、あなたたちがされたみたいに人間を自分の世界に招き入れる事ができるの」
動揺が三人の間で拡がる。ひょっとしたら自分たちも行方不明になっていたのかも知れないという事実を突きつけられ、困惑していた。
そこへ追い打ちをかけるかの如く、陽子が三人の知らないさらなる真実を口にする。
「デジブレインはデータ以外にも人間の精神をジャックして感情を捕食する事もできる。そして食べられた後の人間は意識を失って、まるで魂が抜けたみたいに無気力な状態になる……デジブレインを倒せば元通りになるけどね」
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