EP.30[悲鳴]
「なんでだ、なんで俺が……負けるっ……!?」
アズールたちホメオスタシスの仮面ライダー五名と、Cytuberに反逆した御種 文彦が変身する仮面ライダージェラスの戦い。
その決着は、ビーストモードを使った上で、ジェラスの敗北という形で幕を閉じた。
今までと違ってトランサイバーに破損は見られない。二つのプレートも無事のようだ。
「もう逃げられねェぞ」
「抵抗するな。貴様を逮捕する」
変身を解除した鷹弘と翠月が、文彦へと近付いて行く。
文彦は身を起こし、項垂れて観念したように両手を上げた。
「……分かってるよ、クソッ。どの道……俺にもう戦う力なんか残ってない」
翠月が後ろ手に文彦に手錠をかけ、右腕を引っ張り上げる。立って歩けないため、左側を浅黄が持ち上げて足を引きずりながら運ぶ形となった。
覇気を失った彼の姿を見て、鷹弘は訝しむ。
「やけにあっさり引き下がるじゃねェか」
フンッ、と鼻を鳴らし、文彦は答える。
「もう足掻いたって仕方ないだろ……俺は負けたんだ。この世界はいつだって力の強い方が正しい、それだけの事だ」
そんな投げやりな言葉を耳にして、翔は眉をひそめる。そして文彦の前に立ち、問いかけた。
「本当に力の強い方が正しいのなら。あなたのお兄さんがやっていた事や、あなた自身がお兄さんにしてしまった事は、全部正しかったんですか?」
「それは……」
口を噤み、視線を落とす文彦。翔は彼に近付き、真っ直ぐにその顔を見据える。
「何が正義とか、何が悪だとかを説くつもりはなくて……ただ、単純に力で人を捻じ伏せた方が絶対的に正しいだなんて、僕は思いません。それって闇雲に人を傷つけたり、それこそ気に入らない人の命を奪う事が正しいって言ってるようなものでしょう」
「……なら、正義って……一体何なんだ?」
「僕にもその答えは出せません。というか、きっと本当の答えを知ってる人なんていないんだと思います」
翔がそう言った直後、響がその隣に立ち、その肩に腕を回した。
「そうだな。誰もが答えを知っているのなら、この世に争いが起きるはずはない。みんな探し続けているんだ」
「だから、ちゃんと罪を償って、一度見つめ直して考えてみましょうよ! 今までの事と、これからどうするのかを!」
文彦に手を差し伸べ、微笑む翔。淀んだドス黒い空の中で、彼の笑顔は眩しく見えた。
しかし、文彦は頭を振る。
「そんなもん……遅ぇだろ、今更。俺は栄や伊刈と違うんだぞ。年齢も、やった事の重さも」
「やり直すのに速いも遅いもないですよ! まだ未来があるんだから、むしろ諦めが速すぎるくらいです!」
「人の命を奪って長らえた未来だぜ」
「そう思うのなら、やっぱり失った命のために生き続けるべきなんじゃないですか? あなたは、まだ生きてるんですから」
また文彦は言葉を詰まらせる。そして溜め息を吐き、しかし先程までの諦観の宿ったそれとは違った眼差しで、翔と顔を見合わせた。
「あぁ、畜生……羨ましいな……」
言いながら、文彦は翠月と浅黄に腕を引かれながら一歩足を踏み込む。現実世界へと戻るために。
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