第十三話 8月6日
「羽依里君、朝だよ」
今日も夏海ちゃんの声で目が覚める。
「おはよう、夏海ちゃん……」
「って、あれ?」
目の前にいるのは鏡子さんだった。夏海ちゃんはその後ろから顔を覗かせていた。
「えっと、おはようございます」
挨拶すると同時に素早く起き上がって、思わず布団の上に正座してしまっていた。まさか、鏡子さんが起こしに来るなんて。
夏海ちゃんに、これどういうこと? みたいな視線を送ってみる。
「たまには気分を変えようかと思いまして」
「ちょうど羽依里君を起こそうとしてた夏海ちゃんと、廊下で会ってね」
「せっかくだから、鏡子さんに起こしてもらったんです! 驚きましたか?」
「うん。驚いた」
鏡子さんの背後で、悪戯っぽく笑っている。見事にしてやられたようだ。
「昨日は鷹原さんに起こされちゃったので、仕返しです!」
「え?」
鏡子さんが笑顔のまま固まる。
「夏海ちゃん、起こされちゃったって、どういうこと?」
「そ、そのままの意味ですけど……」
「それじゃあ羽依里君、寝てる女の子の部屋に入ったの?」
「えっと、その……はい」
「ラジオ体操に遅れそうでしたし、前も一度入ったし、えっとその……」
「え、前も? ということは、二回目?」
あ、しまった。
「しろはちゃんなら別にいいけど、それ以外の女の子の部屋に入るなんて……」
鏡子さんの顔がみるみる赤くなっていく。
「……お姉さんに電話しなきゃ!」
「待ってください鏡子さん! 話を聞いてください!」
電話が置いてある居間に走って行ってしまった鏡子さんを全力で追いかけ、必死に誤解を解く。
夏海ちゃんの部屋に入る前に一番に鏡子さんを探した事。結局不在で、俺が起こさなければ夏海ちゃんはラジオ体操に行けず、楽しみにしていた皆勤賞が無くなってしまっていた事等を話し、なんとか実家への電話は踏みとどまってもらう。
「ごめんなさい。私ったら、羽依里君の夏海ちゃんを思う気持ちも知らずに」
「い、いえ。わかってもらえたんなら、いいです……」
朝から汗だくになってしまった。まずは着替えないと。
汗を拭きながら、自室に戻る。
「鏡子さん、ちょっとハサミ借りていいですか?」
「うん、いいよ」
部屋で服を着替えていると、既に準備を終えてたらしい夏海ちゃんが、鏡子さんからハサミを借りていた。
なんだろう。先日のパリングルス工作大会で、工作にハマっちゃったとかかな。
着替えを済ませた後、いつものようにラジオ体操へ出発する。
「それじゃ、今日も元気にラジオ体操、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
「行ってきまーす!」
夏海ちゃんと一緒に加藤家を出る。なんだか、本当に兄妹みたいだ。
鏡子さんに見送られて出発するってのも、初めてかもしれない。
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