第三話 7月27日
「鷹原さーん!」
「そろそろ起きてくださーい!」
「もう八時ですよー!」
夏海ちゃんの元気いっぱいの声に起こされる。
そういえば、朝に誰かに起こされるとか、久しぶりだ。
「夏海ちゃん、おはよう……」
目を開けると、目の前にピンク色のフリルがついたエプロンを着た夏海ちゃんが立っていた。
「えっと、そのエプロンは……?」
「さあ? 台所にあったので、鏡子さんのじゃないですか?」
鏡子さんはそんなフリフリエプロンは着ないと思う。
それ以前に、料理しているところをほとんど見たことがない。
「そんなことより、ごはんが冷めてしまいますから、早く起きてください」
顔を洗って居間に行くと、チャーハンが用意してあった。
「え? チャーハン?」
思わず二度見してしまった。
「えーと、夏海ちゃんが作ったの?」
「はい。頑張りました」
味噌汁の隣に置いてあるのは、間違いなくチャーハンだった。
「朝からチャーハン……?」
「あ、もしかしてチャーハン嫌いでした?」
「いやいや、そんなことはないよ」
チャーハン嫌いって人も、そうそういないと思う。
「でしたら、食べましょう」
エプロンを外した夏海ちゃんも向かいに座り、二人揃って朝ごはんにする。
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
スプーンですくって口に運ぶ。
「おお、美味しい」
全体に良く味が染みていて、ご飯もパラパラ。具材の炒め具合も絶妙だ。
「よかったです。たくさん食べてくださいね」
「うん」
「そういえば、鏡子さんは?」
「今日も朝から寄り合いだそうで。少し前に出ていかれました」
「忙しい人だからなぁ……」
「ですねぇ」
そんな会話をしながら、朝からチャーハンという少し変わった朝食を堪能した。
食後、夏海ちゃんが洗い物を終えて居間に戻ってくる。
「鷹原さん。一つ相談があるんですが」
「え、どうしたの?」
「この家で生活するにあたって、家事の分担をしたいと思うんです」
「昨日、鏡子さんに家の中を案内してもらった時に、洗面所やお風呂を見せてもらったんですが」
「洗濯物は溜まってましたし、お風呂もその……」
「あー……言いたいことはわかるよ。細かく見てたんだね」
「そして、昨日の鏡子さんの夕食……!」
そういえば昨日の夜、鏡子さんが一人でカップうどんを食べていたのを見た夏海ちゃんは、何かを決意していたみたいだった。
「私達はもしかして、鏡子さんに大変な苦労をかけてしまっているのでは……!」
確かに自分たちが外食してきて、帰宅したら家主さんがカップうどん食べてたらショックだよなぁ。
「違うよ。あの人はものすごい偏食でさ。それに、加藤の家の血筋として、致命的に料理が下手なんだ」
「それじゃあ、鏡子さんはご飯どうしてるんですか?」
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