第10話
「冷泉さんは練習の時、全力を出してますか?」
そう西住に問われた俺は思わず顔を強張らせる。
まさか、加減しているのが悟られるとは思いもよらなかった。
「全力、か。出すには出しているが・・・。私が練習の時にサボっていると言いたいのか?」
若干怒気の含んだ視線で西住を見つめると西住は目を白黒させて、慌てた様子を見せる。
まぁ、西住がすでに失礼だったら、と先に言っていたからそれほど怒りはなかったがな。
「そ、その、冷泉さん、履帯が切れた音に秋山さんや華さんは気づいていなかったのに冷泉さんは気づいていたので、ある程度余裕があったのかなぁ・・って思って・・。」
・・・正直言って、西住の言う通り余裕は十分にあった。だが、MSでの戦闘を続けてきてしまった俺は逆に戦車の動くスピードに合わないようになってしまった。
「・・・たまたま切れた箇所の近くにいたからだ。余裕はそんなにないし、Ⅳ号に合わせるのがやっとさ。」
・・・嘘は言ってないよな?とはいえ、俺自身の素性を明かしてもどうとなるわけでもない。むしろ余計に混乱させるだけだ。ここは言わないのが最善だろう。
「ですが、あの戦車の動かし方は初心者ではとても・・・。どこかで戦車道をやってたんですか?」
「いや、全くの初心者だ。構造は知っているが、動かしたのは初めてだ。」
「そ、そうですか・・・。ごめんなさい。こんなことを聞いてしまって。」
あまり納得はしていないといった表情だな・・・。
俺のこんな答え方では納得しろというのも無理だろうな。戦車道をやっていた西住ならなおさらだ。
そうこうしている間に家の近くまで来てしまった。
「私はこっちなんだ。西住は?」
「えっと、私はもう少し向こうですね。」
「そうか。なら、また明日だな。明日もよろしく頼むよ。」
そういい、俺は少しばかり早歩きで家へと向かった。
冷泉さんを見送った後も私は考え事をしていた。
「うーん、やっぱりあの戦車の動かし方・・・。初めての人には難しいと思うんだけどなー。」
冷泉さんの操縦技術は純粋に凄いって感じた。悪路を猛スピードで走ると車体の制御が難しいのに、いとも簡単に暴れる戦車を御してみせた。
正直に言って今まで会ってきた操縦手の中で群を抜くレベル、それも私が去年いた黒森峰よりも凄い。
でも、そのレベルまで達しているのなら絶対一度は聞いたことがあるはず。なのにーー
「一度も聞いたことないんだよね・・・。冷泉さんの名前・・・。」
冷泉さんのことを考えていると、さながら自分が迷宮に迷い込んだような感覚になる。まるで、答えなどそこにはないと言われているみたいにーー
ガンッ!!
「きゃうっ!?」
考え事に耽っていると電柱に頭をぶつけてしまった。ううっ・・・すごく痛い・・・。
「・・・考えていても仕方ないか・・・。」
頭をさすりながら家の前まで辿り着く。どんな事情があるかは知らないけど、冷泉さんは同じ仲間だ。あまり疑うようなことはしたくない。
「もしかしたら、本当に初心者かもしれないしね。」
そんなことを言いながら家の鍵を開け、誰もいない自分の部屋に戻った。
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