第9話
「お、おい。阪口?いきなりどうしたんだ・・・?」
突然M3の操縦手、阪口 桂利奈に抱きつかれて、困惑気味な表情を上げてしまう。
どうしたものかと思っているとーー
「かっこよかったですっ!!」
開口一番、目をキラキラさせてただその一言だけを俺に言ってきた。
かっこよかった?何がだ?なんのことを言っているのか分からん・・・。
「冷泉センパーイ!!」
そこに息を切らした様子で一年生チームが駆け寄ってくる。
ちょうどよかった。彼女たちに聞くか。
「・・・彼女、突然どうしたんだ?」
俺がそう聞くと一年生チームのリーダー格、澤 梓が息を整えて理由を述べた。
「えっとですね・・・。冷泉先輩の運転を見て、桂利奈が目を輝かせてカッコいいって言って、駆け出しちゃって・・・。私たちは止めようとしたんですけど・・・。」
かっこよかったとは俺の操縦のことだったのか・・・。俺自身としてはかなり無茶な操縦をしただけだったのだがな・・・。
「冷泉センパイ!!どうやったらさっき見たいに戦車を動かせるんですかっ!?
こう、グワンってやったり、ガッ、ガッって!!」
阪口はかなり興奮気味なのか、擬音を交えて俺に先ほどの戦車の動かし方の説明を要求してくる。
教えてやってもいいのだが・・・。いきなり俺がやっていることを教えてもどうしようもあるまい。
とりあえず、やるにしても基本をマスターしてからだな。
「とりあえず、まずは基本的なことを覚えた方がいい。教えるにしてもまずはそれからだ。」
「えっ!?いいんですか!?桂利奈のわがままに付き合ってもらっちゃってっ!?」
金髪のツインテールに丸眼鏡、驚きの表情を上げているのは、確か『大野 あや』か。
「ああ、構わないさ。ただ、現状としては自動車部の面々を呼んできてくれないか?戦車の履帯が切れてしまってな。」
「あいっ!!分かりました!!」
桂利奈が元気よく返事すると駆け足で戦車庫へと走っていった。
そんなに早く走るとこけるぞ・・・。
「あの、重ね重ねごめんなさい。・・・本当に良かったんですか?桂利奈の指導を受け持って。」
一年生チームで比較的身長が高く、ボーイッシュな印象を受ける『山郷 あゆみ』が申し訳気味な表情で語る。
「ああ、大野にも言ったが問題ないさ。こちらとして頼られるのに悪い気はしないからな。だからそんなに申し訳なさげな顔はしなくていいぞ。山郷。」
(それに覚えて少しでも戦車を巧みに動かせる奴を増やしていかないと後々厳しいからな)
内心そんなことを考えていると山郷が驚いた顔をしていた。
「え・・・・。私の名前、覚えてくれたんですか?」
その言い草だと、私がまるで覚えられていないような感じだな・・・。
覚えているに決まっているだろう。なぜならーー
「仲間だからな。覚えていなければ逆に失礼だろう?当然のことだ。」
「仲間・・・ですか。」
「ああ、期間は短いかもしれないが、仲間であることに変わりはない。」
そう言って視線を別の方向に向けるとちょうど運搬用のトラックに自動車部の人物が乗ってやってくるのが見えた。
ここは法律上は私有地だから道路交通法には違反しないのだろうが、果たして高校生が車を運転してもいいのだろうか・・。しかもトラックだぞ?
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