⑥
2コマ短縮授業をしてからの大掃除、体育館で終業式、LHRで通知票を受け取り、帰りの挨拶を終えると正午を少しまわっていた。
高校で受け取る通知票は、小中学校の時の厚紙と違って味気ない。A4サイズのコピー用紙に印刷された、担任の印鑑が押してあるペラッペラの一枚だけ。どうせ同じものが保護者宛に郵送されているから〇び太君みたいに隠したって意味がない。
数学と体育が〝4〟、あとはオール3という面白みのない成績で、帰宅して母親に見せても「ふーん」と言って興味なさ気にキッチンのテーブルの上に置かれてしまった。
ことわざに「末は博士か大臣か」とあるけど、高校生になり、そして兄の実情を知っている親の身からしてみれば、我が子の限界などもうとっくに達観していたに違いない。
話は前後するけど、まず帰宅「後」の話から。
無造作に置かれた通知票の下に、これまた無造作に置かれたチラシがあった。
「大強度、粒子加速器、一般公開、見学会?」
タイトル長い。ラノベかよ。
「夏休みに合わせて、今度お父さんが作ってる施設の公開をするんだって。あなたも少しは興味があるんじゃないかってチラシ持ってきてくれたのよ」
と、母親は語尾を下げながら告げる(忘れているかも知れませんが、僕の父親は高度な技術職に就いて居ります。詳しくは③参照です)。
粒子加速器。
漠然とした知識しかないが、素粒子という原子分子を構成する小さな小さな粒子を荷電し加速して衝突させ、物質の構成のおおもとを調べる装置、らしい。前に父親がデスザウラーの荷電粒子砲の原理について散々文句を言っていた理由もこれである。
「建築が進むと、装置の内側は閉められちゃって、永遠に見学できなくなるんだって。だから大きな電磁石とか、その、ナントか言うつぶつぶが動き回るパイプみたいなところを見学できるラストチャンスなんだって」
チラシの日付を確認すると八月末の公開だった。母親は「パイプ」と言っているけど、たぶん粒子加速器の長いリング部分のことで、その周辺通路を通電前に見学するため、暑さ和らぐ頃のギリギリ夏休みの終わりに企画を持ってきたのだろう。
興味はあった。中二病っぽいけど、シュレディンガーの猫の仮想実験はネット検索しても全然わからないのに知ったつもりになっていたし、なにより粒子加速器とはゾイド界隈の最強武器である『荷電粒子砲』の基本原理であるはずだ。そんな自分を満足させるためにも、施設見学はしたいと感じた。
「考えておく。父さんには僕から話すよ」と言って、念のためにチラシを勉強机のライガーゼロの足の下に挟む。
けれどその前に待ち望んだイベントが控えていた。
以下、前後した話の、時系列的に「前」の話題である。
その日は文芸部での参加者ミーティングがあった。待ち合わせ場所は、偶然にもあの時彼女と一緒に夕食を食べた、学校からひと駅先のファミレスだった。
放課直後の教室で、成績表やら夏のプリントやらを無造作に鞄に放り込み、僕は手のひらに汗を握りながら立ち上がった。進行方向には、赤いスマホを操作する彼女の姿がある。
(自然に、ごく自然に)
背後に押川の視線を感じる。
せっかく、ひと駅先まで一緒に行く大義名分はあるのだ。いつもの様に悪友に間が悪く邪魔されないよう事前に念押しをしておき、彼女への声がけにチャレンジした。
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