ハーメルン
鵜養貴也は勇者にあらず
第十話 嘆きの勇者

樹海化が解けると、すぐに銀は大赦の息がかかった最寄りの総合病院へ運び込まれた。
すぐに緊急手術が始まる。
須美と園子も重傷を負っていたため、別々に治療を受けることとなった。

園子への取り合えずの処置が終わった時、すでに時刻は深夜帯に入っていた。
須美の方が重傷だったようで、まだ彼女は治療中だ。
園子は銀のことが心配でたまらず、手術の待合室へ向かった。




そこには、二組の家族がいた。
一組は知っている。三ノ輪銀の両親と弟たちだ。

だが、もう一組も知った顔だった。
それを認識した瞬間、園子の心臓はドクンと気持ち悪く跳ねた。

貴也の両親と妹の千歳だった。
両親は憔悴しきった顔をしている。千歳も目の周りを腫らしたまま、眠っていた。

まるで、悪い夢でも見ているようだった。
ふらふらと近づいていくと、貴也の母である千草に気付かれた。

「園子ちゃん? どうして、ここに……? ――――――貴也が、貴也がトラックにはねられたって!」

半狂乱状態で縋り付いてきた千草の声が、耳の奥でわんわんと共鳴する。

『たぁくんは樹海化の中でも行動できた……。きっと、ミノさんが一人で頑張っているのに気付いたんだ。たぁくんなら見過ごすわけがない。きっと……、きっと助太刀に入ったんだ!』

そこまでだった。
目の前が真っ暗になり、園子はその場に倒れ伏した。








気がつくと、病室のベッドの上だった。
自分のことよりも二人のことが気になり、ベッドを抜け出して病室の扉を開いた。
ちょうど扉を開けようとしていたのか、安芸先生と鉢合わせた。

「ちょっと、乃木さん、どこへ行こうとしているの? 貴方、丸一日、気を失っていたのよ。もっと体を休めないと」

「ミノさんのことが心配で……」

貴也のことは、あえて伏せた。大赦にどういう扱いを受けるか分からなかったから。

「分かったから。説明するから、とりあえずベッドに横になりなさい」

渋々、ベッドに戻る。
医者に連絡が行き、簡単に診察を受けた後、安芸先生の話が始まった。

「今、分かっていることだけ話すわね。まず、三ノ輪さんの手術は成功しました」

「!」

「でもね、昏睡状態は続いている。命を取り留めるかどうかは五分五分ということらしいわ」

「そんな……」

「それと、もう一つ悪い知らせよ。三ノ輪さんの勇者資格が剥奪されました」

「どうしてですかっ!」

「神託よ。神樹様から、三ノ輪さんを勇者の任から解く、とのお告げがあったの。もちろん、それだけじゃない。知っていると思うけど、三ノ輪さんは右腕を失っています。左足も酷い状態だったらしいわ。もう、彼女にこれ以上のお役目を強制させることは出来ない……」

安芸先生は、そこまで言って目を伏せた。

何も出来ない自分がもどかしく、園子は唇を噛んだ。
だが、知りたいことはそれだけではない。
安芸先生が止めるのを振り切って、手術の待合室へ向かう。

安芸は、園子が銀の現状を知って動揺しているのだと思い、止めるのをあきらめた。



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