第十二話 あきらめない
神世紀二百九十九年の正月を迎えた。
ここ何年か、鵜養家は元旦に鵜養の本家へ挨拶へ向かうのが恒例行事となっていた。
今年も例年どおり、父母と妹は鵜養の本家へと向かった。
だが、貴也は今年はそれを断った。
乃木家を訪問するつもりだったからだ。
園子の父、紘和は多忙な身の上である。そのことは貴也も重々承知していた。
だから、紘和を確実に押さえるには乃木家本家の当主であることを踏まえ、元旦に親戚や知人からの訪問を受けるタイミングしかないと考えていた。
乃木家を訪問するのは約二年ぶりである。
少々緊張しながら、インターホン越しに執事へ訪問の旨を告げる。
意外なほど、あっさりと玄関までは通してもらえた。
暫く待っていると、紘和と奥方がやって来た。
後になって思うに、こうして貴也と面と向かって会ってくれたこと自体、貴也に対して相応以上に配慮してくれた結果だったのだろう。
だが、その時の貴也にはそこまで考えを巡らす余裕はなかった。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
「あぁ、おめでとう。――――――君が何故、ここにやって来たかは承知しているつもりだよ」
「なら、そのちゃんに会わせてください。そのちゃんは無事なんですか?」
「君が、これまで園子にしてやってきてくれたことには感謝しているつもりだ。だが、君を園子に会わせてやるわけにはいかない。園子のことは忘れてやってくれないか? 本人も、そう望んでいる」
そう無表情に返された。だから、反発するしかなかった。
「どういうことですか! そのちゃんに何かあったんですか! そのちゃんが、そんなことを言うなんて信じられません! 教えて下さい。何があったのか。自惚れでなく、僕にも何か出来ることがあるかも知れません。お願いです」
「もう、遅いんだよ。なにもかも。――――――今、言ったように園子も、貴也くんには自分のことを忘れてほしいと言っているんだ。それに、私たちにも君に、園子を会わせてやれる伝手はないんだ。帰ってくれないか」
とりつく島もなかった。そのかたくなな態度に、どうすることも出来なかった。
肩を落として帰るしかなかった。
踵を返し、玄関を出ようとしたところで、後ろから紘和の絞り出すような声が聞こえた。
「ありがとう、貴也くん。君にここまで想ってもらえて、園子は幸せ者だったのかもしれない。本当にすまない……」
思わず振り返った。
深々と頭を下げる二人の姿が目に映った。
園子がなにか、とても悪い状況に、それも、取り返しのつかない状況になっているのでは、と心臓を鷲掴みされたかのような衝撃を受けた。
結局、乃木家では何も状況は好転しなかった。いや、返って最悪の状況になっていることが明らかになりつつあった。
貴也は絶望に打ちひしがれそうになった。
だが、諦めるわけにはいかない、とも思った。
自分が諦めれば、もしかしたら、園子は誰にも助けてもらえないんじゃないかと思った。
まだ、望みはあるはずだと思った。だから……
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