第七話 白昼夢
園子からの難題に音を上げた貴也は、母の千草に助けを求めた。
すると、母親とは偉大である。簡単に解答に辿り着けた。
指輪を、首から下げるネックレスにしてしまえば良いのである。
確かに、神樹館中学は生徒の自主性を重んじていて校則は緩い。
ロケットの付いたネックレスを常用している女子生徒もいたはずだ。
そこで日曜日、母や妹と連れだって、ホームセンターまでアクセサリー用のチェーンを調達に出かけた。
ホームセンターのサービスでチェーンの加工までしてもらえた。
繊細なデザインにもかかわらず相当丈夫なチェーンを、指輪に取り付けた金具に通してもらい、首に掛ける。
チェーン取り付け用の金具は、指輪を傷つけないようなデザインのものを慎重に吟味して選んだ。
「うわー、羨ましいなー。お兄ちゃん、私にくれない?」
「渡せる訳ないだろ。そのちゃんからの誕生日プレゼントなんだから」
「うー。ラブラブでいいなー。そにょちゃん、わたしにも何かくれないかなぁ」
「高価な物なんだから、大切にしなさい。それから、園子ちゃんのお誕生日には、それ相応のお返しを考えておきなさいよ」
「うん。分かってるよ。でも、これのお返しかぁ。これまた難題だなぁ」
そう言いながら、下着代わりのTシャツの内側に指輪を隠す。
こうすれば、余計な問題が発生せずに済むだろう。そう考えた。
その後、しばらくウインドウショッピングを楽しんだ。
だが、あまりにも千歳が園子からのプレゼントを羨むので可哀想になり、小遣いから母と折半で小さく可愛らしいペンダントを買ってやった。すると現金なもので、途端に兄へ飛び付いてくる。
「やったー。お兄ちゃん、大好き。愛してる!」
「お前のそれ、ものすごい安売りだからなぁ」
「そんなことないよ。世界で一番可愛い妹の『大好き』は、きちょーだよ」
「どこの誰が世界で一番可愛いんだよ」
「じゃあ、『世界で二番』でいいや。どうせ、お兄ちゃんの『世界で一番』はそにょちゃんだもんね。シシシ……」
そんな風にからかってくる妹を見やって、ため息をつく。
『小一のくせに、ませてんなぁ。いったい誰に似たのやら。でも、まぁ、そのちゃんと比べるのはナニにせよ、確かに同級生の中じゃ、可愛い方か……』
そんな風に親バカならぬ兄バカな結論が頭に浮かんだのと同じタイミングで、母親が二人に声を掛けてくる。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。と、その前にあそこの売店でジェラートを食べたい人、手を上げて!」
「ハイ、ハイ! ハイ、ハイ!」
騒ぐ妹の後ろで、静かに左手を上げる貴也であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あー、おいしーねー」
「あぁ、そうだな」
苺のジェラートをパクつく千歳が満面の笑みで話しかけてくる。それに、おざなりな返事を返しながら、貴也も一心不乱に食べる。
『やっぱ、プレーンなバニラが至高だよな』
などと愚にもつかないことを考えていると、不意に違和感を感じた。
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