ハーメルン
終にナザリックへと挑む暴君のお話
蛮王訓示


「つまり霜の巨人は強いと?」
「つ、強い事は強いです。父もこうして数を集めて対抗しようとしたくらいですから。しかしそれは我々と同程度にという話であって、蛮王陛下より強い事は無いかと……」
「そうか……あ、マールよ、蛮王に陛下はいらないぞ。なんか変な感じだろ蛮王陛下って。それに、私を呼ぶときはそう言うんじゃなくてフィーネと呼べ」
「ふ、フィーネ様とお呼びすれば良いのですか?」
「まあそうだな。別に様も敬語もいらないが、お前の好きなように呼べばよい」

 ヘジンマールは正直気味が悪かった。何でこの人こんなに俺の事好きなんだろ、と。

 この山脈で最も大きな勢力の主であった父を一刀の下に切り捨て、存在しないとばかり思っていた第十位階魔法で延命し、そして瞬く間に癒した訳の分からない化け物は、ヘジンマールの事を大層気に入ったらしかった。

 今もまた、ヘジンマールの頭の上に寝そべって鱗を撫でている。曰く『大きいのの中ではお前が一番可愛らしいな』、と。マールと呼ぶのは『ドラゴンの名前って長くて複雑なんだもん。マールの方が可愛いぞ。お前丸っこいし』らしい。

 ヘジンマールは特別扱いなのだ。ヘジンマールと同等に扱われているのは卵から孵って十年も経たない様な幼竜だけである。『お前らはペット枠だから』と言われた。

 ヘジンマールは初めて過剰な脂肪に覆われた自分の身体に感謝した。気味が悪い事は悪いが、父を一刀両断する様な化け物に嫌われるよりは数百倍はマシであり、意図せずして生存の可能性が高いポジションを確保できてしまったのだから。

 デブで良かった、と日頃のドラゴンらしからぬ不摂生も無駄では無かったのだと初めて知る。毎食部屋まで運んできてくれた弟妹達には心から感謝したかった。

「まあ良い。全部殴り倒して知能のある奴はみんな配下に加えよう。異存ある者はいるかな?」

 問うた先には、首を垂れて平伏す成竜とクアゴアの群れ。直立しているのはフィーネを乗せたヘジンマールと傍らに控えるグなるトロール、ヨオズというクアゴアだけだ。幼い子供は初めから除外されている。
 つまり格好としてはヘジンマールも傅かれている訳だが、優越感などは全く無い。多少有利でも、目の前で平伏す大勢と立ったままの自分に差は無いのだ。

 機嫌を損ねれば、癇癪が爆発すれば切って捨てられる。その時の気分次第で治される。つまりは生殺与奪を握られているという点では。

 父も含めた全ての成竜、そしてレッド・クアゴアやブルー・クアゴアを中心とし、最前列に氏族王ペ・リユロを戴くクアゴア軍は驚異的な一体感で叫んだ。

「異存ありません! 全てはフィーネ様の望むがままに!」
「うむ、みんなありがとう。基本は私が先頭で突っ込むから、皆は巻き込まれない様に後から来なさい」
「はっ! ご配慮のほど痛み入ります!」

 すごいシンクロである。死への恐怖、力への畏怖という生物の本能で統一された集団だ。
 ドラゴンの内比較的年長の何頭かが『父上もお前も傷一つ無いではないか! 戦って勝ったなど信じられん!』と反抗したが、例外なくオラサーダルクと同じ道を辿り、今では絶対服従である。ドラゴンが一度に何頭も真っ二つにされ、真っ二つなのに動いて喋り、そして一瞬で治癒する様を見せつけられたクアゴアも同じだ。
 氏族王ペ・リユロはそれらを視認すると同時に、クアゴアという種族全体が持ちうる全てをフィーネに捧げ、絶対の忠誠を誓った。生物として正しい判断だろう。

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