蛮王奔走、そして会議
『うむ! ザリュースの兄だけあってシャースーリューもカッコイイな! ちょっと名前が言い辛いのが玉に瑕だが、補って余りあるほどイケメンだ! 武器が大きな剣というも親近感が湧いて良い! シャーよ、私に仕え、私のものとなれ! ──あ、蘇生直後は倦怠感が凄いのだったか? 無理に答えずとも良いぞ、他の者と一緒に療養せよ。私は今からちょっとトードマンとやらを征服しに行ってくる』
『じゃあな、元気になった頃に帰ってくるから!』──そう言って、蛮族の王は馬鹿みたいな速度で吹っ飛んで行った。吹っ飛んで行った馬鹿の背後を、側近たちも死に物狂いで追っていった。
フィーネは語った。お前たちの事が好きだ、と。
リザードマンは勇敢に、死力を尽くして戦った。その戦振りが良い、と。
リザードマンは外見が逞しく強そうでカッコイイ。そこが好ましい、と。
リザードマンは族長選抜を勝ち抜いた者、最も強き者が部族を率いる。全ての種族がそう在るべき姿だ、と称賛した。
お前たちの事が気に入ったのだ。繰り返しそう言うと、死んだ戦士を生き返らせ、戦傷者を癒して回った。そして必ず語り掛ける。生きて私の為にもう一度戦場に立て、と。
次々と覆される永遠の別れ。幾度となく繰り返される奇跡。
蘇生魔法を受け付けず、死を選んだ遺体もあった。中には灰と化した遺体も。しかしそれでも三日間に渡って繰り返された死者蘇生と治癒の行脚は、今回の戦争で死んだ蜥蜴人の三分の二を生き返らせた。かつての敵軍からも多くの者が死から還ってきた。
今も泥土に沈んでいるであろう番の、我が子の、両親の、友の遺体を見つけんと戦場を巡る者たちが絶えない。見つけた輩の遺体に出来得る限りの防腐処理を施す者も。
戻ってくるまでに見つけておけば私が復活させる、と蛮王が言い残して行ったからだ。
空も大地をも切り裂く武威。理を覆す魔法。幾度となく掛けられる戦士への、種族全体への称賛。私のものとなり私に従えという命令。
フィーネ・ロート・アルプトラオムは、リザードマンの畏怖と信仰を勝ち取りつつあった。
言葉を交わした事のない大多数のリザードマンにとって、彼は余りにも超常の存在に過ぎた。
この世ならざる力を持ちこの世の理を凌駕する存在に、多くの者は平伏した。
リザードマンは神に選ばれた、あの戦いはリザードマンが神の戦士となるに相応しい存在が試す為の試練だった。一時のはしかの様なものだろうが、そう主張する若い者達まで存在した。それは今までのリザードマンには無い思想であった。
実際遠くから一目見た程度の面識しか無ければ、かの存在は、かの存在が振るう力は伝説を上回る神そのもののそれとして映った事だろう。
剣によって望むがままに死を生み出し、魔法によって望むがままに生を与える。荒ぶる神。神ではないとしても、神と並ぶ力を持つ者。神に見初められた我らには繁栄が待っているに違いない、そう夢想する者は少数ながらどの氏族にも見られた。
実際にフィーネ・ロート・アルプトラオムと言葉を交わし、その幼稚性と考え無しをまざまざと見せつけられた族長たちも、その言葉に異を挟みはしなかった。卵から孵ったばかりの幼子が神の力だけを持っているに等しい、彼らはその事実を正しく認識できたが、だからと言ってどうする事も出来ない。
する意味もない。事実として、これよりリザードマンは外敵に脅かされない生息環境を手に入れるだろう。戦士は戦場に立ち、時には負けて死ぬ。しかしそれは今までとなんら変わりないのだ。
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