01.悪役令嬢は百合したい
こういった始まりでよくある話だけれど、人を助ける為にトラックに轢かれた訳じゃない。神様に好かれる様な事もしてないし、何よりも神様なんて信じてない。何かしらの善行を積んだ訳でもないし、逆に悪行を果たした訳でもない。
人生に満足していなかった、という項目には当てはまるかも知れないけれど、それでも妥協と諦めの上での人生としてはそこそこに満足していた。
異世界に憧れていた。この項目にもチェックが入る。妥協と諦めを基盤にして現実に生きていたのだから、妄想ぐらいしても当然だと思う。それこそ、男の夢のように、美人に囲まれてハーレムしたいだとか、エルフの嫁を貰って怠惰に生きるとか、剣と魔法の世界で勇者に成るだとか。まあ勇者なんて真っ平ゴメンだなぁ、と思うのも俺であったけれど。
一般常識をそこそこに、嗜み程度に……いや、それなりに、人に言えない程度にはサブカルチャーと呼ばれるべきモノに漬け込まれている。それは自覚している。だからこそ、こうした展開を正しく、或いは間違って理解している。納得はしていないけれど。
俺が納得してなくても時間は経過する。どうやらここでもその理屈は通用するらしい。HAHAHA、はぁ……。
転生しました。
王歴163年。俺が生まれて三年の時が過ぎた。果たしてどうして俺なんかが転生したのか、さっぱり分からないまま三年も過ぎてしまった訳である。
フローチャートの様に神様から「世界を救え」などと言われる転生は実に羨ましい。尤も、世界を救え、などと勇者のような役割を与えられるなど他の誰かに譲ってしまいたくも思うけど。
天蓋付きのベッドで目を覚ます事にも随分慣れてしまった。それなりの、というよりも恵まれた生い立ちだ。孤児という訳でもなく、奴隷でもなく、むしろ真逆の貴族だ。
ゲイルディア侯爵。その家系に現在の俺の名前が連なっている。ここ三年間で――いまいち動きの無かった幼少期を省いて二年程――俺は現在いる世界の事を学んだ。それはもう頑張った。
異国からやってきた勇者を王として作られたのが現在のシルベスタ王国である。寝物語として語られるソレを聞いて俺は顔を引き攣らせたモノである。
今となっては戦争らしい戦争は起きていないそうだが、そもそもシルベスタ王国自体がかなりの軍事国家であったらしく爵位もソレに連ねて与えられたらしい。
果たして戦記モノを寝物語として聞いた俺の気持ちをご理解頂けたと思う。
そこからは戦争が怖すぎて、とにかく調べた。結果として現在は安定している事が判明したし、どうやら諸外国とは停戦協定を結んでいるらしい事も判明した。
幸いな事に科学はそれほど進歩しておらず銃もない。ただ、それを悪く言えば医療技術があまり発展していないという事だ。
医療技術が発展しなかった理由もある。魔法だ。傷を治す、体調を整える。そんな効果の魔法があるのならば医療がそれ程発展していない事も納得出来る。
尤も、魔法技術に関してはよくわからない。なんせ歴史ばかり調べていたのだ。どういった原理で魔法という現象が行使されているかなんて知れる訳がない。
ともあれ、そんな世界なのだ。殺伐とはしていないものの、世界的に裕福ではない。前世でもある現代が世界的に裕福かと聞かれれば俺は言葉を迷うしか無いのだが。
かくして前世の知識がどの程度役に立つかは分からない。むしろ前世に役に立つような知識はあるのだろうか……無い気がする。
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