ハーメルン
やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。
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 とは言え、俺も楽器決めだけは負けられない。くじ引きとかではなく、実力を見るみたいだから、負けたなら仕方なく他の楽器に素直に移るけれど負けたくはない。
 なんせトランペットは人気だ。おそらく選ばれるのは三人、多くて四人だろうか。枠の数以上に応募者がいるのは確定である。あー、少しでも応募者が減る何か一事件起きないだろうか。

 「まずはトランペット」

 おう、早速トランペットからか。
 トランペットを両手で持ち部員達の前に立った先輩は、入学式の日に見ためちゃくちゃ美人な先輩だった。

 「トランペットパートリーダーの中世古香織です」

 男女問わず、新入生から惜しみない拍手が起こる。
 どこかお嬢様然とした声。ショートカットに切りそろえられた髪に、整った顔立ち。そして一番の特徴と言える目の下の泣き黒子が庇護欲を引き立てる。優しそうな印象とどこか儚ささえ感じる美しさに、俺含め心を打たれた男子は多いだろうが、告白することさえ憚られる。
 吹奏楽部を始めとした女子が多い世界でも、意外と美人だからと邪魔者扱いされることは少ない。特別扱いされることの方が多いという印象を受ける。
 どこの世界でも美男美女は得をする。はっきりと決まった世界のルール。思い返してみれば、俺も特別扱いされることが多かった。パート練習の合奏は俺がトイレに行っている間に始まっていたし、みんなが椅子をくっつけている中、俺だけは机四つ分くらい離れた場所に座らされた。もしかして俺もイケメンだと言うことにみんな気がついていたのか。違うな。

 「はぁーん。香織先輩、今日もマジ美人…」

 うっとりとした声は教室の端の方から聞こえてきた。
 美人だと褒められた当の本人は少し恥ずかしそうに、けれど慣れた様子で説明を続ける。

 「トランペットは正に金管の花形です。ソロやメロディーが多いし、きっと楽しいと思います。今このパートは五人いて、仲も良いので、是非皆さんこのパートを希望して下さいね」

 トランペットは花形だとか毎回こういう機会では聞く定型文みたいなことしか言ってないのに、応募者が増えちまいそうだ。パートの仲が良いとか100%嘘だと思ってるし、疑って掛かるはずなのに中世古先輩が言うと信じちゃう。

 それからトロンボーン、クラリネット、フルート、パーカスと説明が続いた。
 俺からすればトランペット一択だが、他の新入生達は話を聞くにつれ迷っていそうな人も多い。実際、経験者はどのくらいいるのだろうか。経験者だからといってこれまでやっていた楽器を続けるとは限らないが、経験していたことはかなりのアドバンテージになるに違いない。
 パーカッション、ストレス発散になるとかいってたけどもう少し説明あるだろう。演出の繋ぎとして使われる事が多いとか、ずっと立っているのが疲れるとか、ずっと同じリズムを繰り返しているからどこをやっているのかわからなくなるとか。あれ、これ全部マイナスか。
 次に説明するのは、先ほどの低音パートリーダーと思われる先輩。手には銀色のユーフォニアムが握られていた。

 「低音パートリーダー兼副部長の田中あすかです。楽器はユーフォニアムです。ユーフォニアムとは……」

 長すぎるユーフォの説明を何となく聞き流す。

 『いい?楽器ってね、凄いんだよ?まずね、どうしてこんなに高い音から低い音まで、いろんな音が出るんだと思う?』

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