演劇集団・劇団天球
はぁ、どう描けば良いんだ。
とりあえず片付けを始めていこう。
絵を外せば、シートは丸められるように作っておいた。
……だけど、シートを外した後、俺は何を描きゃいいんだ?
「いいと思うんだけどなこの背景。何が駄目だったんだ?」
「私に分かるわけないでしょ」
っと、剥がそうとした背景画を、亀さんと七生さんが見てる。後回しにしとくか。
二人には好評みたいだな。
じゃあそこまで酷くはない……と思いたい。
なら問題点はどこだ?
「でも、これだけは言える。
私達の目より、英二の目より、巌さんの目の方が確かよ」
そうなんだよな。
俺も、俺の目以上に巌爺ちゃんの目を信用してる。
何かが違ったんだ、何かが。
「巌さんは、俺の作品のどこをいけないと思ったんでしょうか……そこが分からないと」
いつまで経っても地獄みてえに繰り返しだ。
野外公演の開始までには絶対に間に合わせないといけねえし、背景がねえとセットが完璧には完成しねえし、セットが完成した状態で劇団の通し稽古も必須……と、なると。
どんなに長くても使えるのは二週間ってとこか。
どうしたもんかな。
「巌さんは曇り空とか夜空が見たかったのか?」
亀さんが真剣に考えてくれている。
「いや、今回の演劇の作中時間帯は昼間よ。
野外公演はナイターでもなければ基本昼間にしかできないわ。
だから演劇の世界の中の時間は全部昼間のはず。だとしたら、曇り空だろうけど……」
七生さんが真面目に考えてくれている。
それだけで、なんか嬉しい。
俺の仕事のことだから、何の役にも立たねえけど……いや、そうじゃねえか。
この二人は、俺の仕事を改善できるようなジャンルの知識はねえ。
だけど、そんな二人が俺のために真剣に考えてくれてるからこそ、嬉しいんだ。
「とりあえずプランを考えてみます。まだ空の絵のバリエーションはあるので……」
「ふーん、どんなの? 聞いてもいい?」
「とりあえず一つは、今七生さんが言った曇り空。
他は夕焼けの情景か、ステージを消してしまう背景画もやってみます」
「ステージを消す?」
七生さんが小首をかしげた。
「背景画をリアルにして、ステージに穴が空いているように見せるんです。
絵そのものが覗き窓に見える風味というか……
絵の向こうの景色が現実であるように見せかけ、目の錯覚を呼ぶタイプの背景にします」
「へえ、そんなの描けるのかお前」
亀さんがほほうとニヤつく。
「ウルトラマンなどでは必須技能ですからね。
撮影スタジオは広くないですから。
そこに壁があるけれども、そこに壁があると思わせない……そういう背景になります」
仮面ライダーとかなら、カメラの背景はビルとかになるが、ウルトラマンとかだと巨人の背景に地平線や空が見えるもんだから、背景の空がヘタクソだとスタジオだと即バレちまう。
本物と見間違えそうな空を描けなきゃ、スタジオ担当は無理なんだよな。
が。
描ける、が。
それだけでどうにかなるか?
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