理由は笑顔の内に在り
俺が生まれたのは2000年度。
東京のとある病院で、俺は生まれた。
その年、親父は仮面ライダークウガ(2000)の撮影に協力していた。
俺が生まれたその日も、親父は撮影の現場に行っていた。
後から聞いた話だが、結構な難産だったらしい。
俺は赤ん坊の頃から他人様に迷惑をかけるようなクソ野郎で、出産の際に俺は死ぬ可能性が高いと予測され、最悪おふくろの命にかかわるかもしれないと言われていたそうだ。
出産が始まり、俺が生まれそうになったその時、病院の医者は親父を呼ぼうとした。
そりゃあそうだ。
でなきゃ、親父は仕事してる間に何も知らないまま、息子と妻を亡くすかもしれねえ。
だけどそいつを、身重のおふくろは止めた。
『仕事に集中してください!』
おふくろは、医者が親父に繋いだ通話口に向けて、そう叫んだそうだ。
親父は仕事を続けた。
医者が死ぬかもしれないと言っても、病院には来なかった。
俺もおふくろも死なず、出産は完了し、それから日付が変わって、親父はようやくそこで来た。
おふくろはそんな親父の選択に満足したらしい。
当時、そういうことがあって、そういうことを思ったことを、うんと小さい頃の俺に、おふくろは語って聞かせてくれた。
誇らしそうに。
自慢をするように。
母体と赤ん坊の命と、仕事を天秤にかけ、仕事を選んだ夫のことを語って聞かせてくれた。
『あなたもお父さんみたいな人になれると良いわね』
そこで仕事を選べるような『他の人とは違う判断ができる特別な人間』だから愛しているんだ、と言わんばかりに。
だから俺は理解した。
親父が撮影所で撮っていた、それは。
俺の命より大切なものだったんだと、そう思ったんだ。
人を感動させるそれは、俺の命より価値があるものなんだと、分かったんだ。
俺の命は作品ほどには価値がないんだと、理解したんだ。
少なくとも、仕事を優先した親父と、この日のことを誇らしげに語っていたおふくろが、そう認識していることは間違いなかった。
親父が俺やおふくろの命より優先した仮面ライダークウガを、その日の内に見始めた。
クウガは、ドラマ性がとても強い仮面ライダーだ。
その深いテーマと非常に高い作品クオリティは、人によっては20年経った今も仮面ライダー最高傑作と評価してるらしい。
人一倍我慢強く、人一倍やせ我慢が得意なだけの、いい笑顔の優しい男が、超古代の戦士の力を身に着け人々を守るストーリー。
戦いに次ぐ戦い。
守りきれず殺される人々。
傷付く罪無き人の、流れる涙。
主人公が守れた人々の、救われた笑顔。
人々を傷付け笑う邪悪達。
全てが、極めて高いクオリティで作られていた。
無力感と戦いの痛みがひたすら刻まれる地獄の中、仮面ライダークウガはただ一人戦う力を持つ者として戦い続け、人前では笑顔を作り続ける。
印象的なのは、ジャラジという敵と主人公の仮面ライダーが戦った時だろうか。
子供達の頭の中に針を埋め込み、数日後に針が大きくなり、死ぬというゲーム遊びをジャラジはしていた。
頭に針を埋め込み、「四日後に君は死ぬ」と言う。
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