彼だけが彼を天才だと知らない
現在の所持品を確認しよう。
撮影者の隅っこに転がっていたスプレーが六種類。
片方の目が完全にぶっ壊れたスーツ一着。
俺のポケットに入ってた金属ヤスリ等の手持ち仕事用具一式。
以上。
……結構詰んでる! つらい!
「あの、おにーさん、駄目だったら……」
「大丈夫です。俺に任せてください、山森さん」
山森歌音ちゃんは、自分が壊したスーツを前に泣きそうだ。
子供を泣かせるわけにはいかねえよなあ?
何せ、ここは子供の味方・仮面ライダーの撮影舞台なんだから。
うーん。
どうすっかな。
とりあえず片目が壊れたスーツの、もう片方の目も引っこ抜いておこう。
「わー!?」
「の、残った片方の目まで!」
「何しとるんやキミー! えらいこっちゃやで!?」
「いやいや、片目残してたら駄目ですよ。
この短時間じゃ絶対に同じ素材は揃えられません。
そうなると右目と左目の色合いの差が出て、ひと目で分かってしまいます。
それなら、両目とも外して両目とも同じ素材で一から作った方がいいですよ」
「む」
「それなら両目の色は揃います。
視聴者は、左右の目の色が違えばすぐ気付きます。
でも両目の色が揃ってるなら、普段と少し色合いが違くても
『光の加減だろう』
と思ってくれるものなんです。まずは両目の色を揃えることを考えないと」
頷いてる。みんな分かってくれたようで何よりだ。
うし、まず前提だ。
素材の関係上、完璧に戻すことは絶対に不可能。
そんでもって、今回の撮影一回分乗り切れればいい。
カメラの前で、同じ仮面ライダーに見えればいい。
つまり、だ。
長持ちしなくてもいいから、普段のスーツと同じように見える仮面ライダーの目を作り、このスーツにはめ込めばいい。
まず、そこを始点にしよう。
冷静に、一つ一つ考える。
現在の仮面ライダーの多くの目は、平成の時代に行われた革新……つまり、『ミラー素材の上に透明な素材を載せる』という構造で作られている。
下地のミラーが太陽光を反射し、それをミラーの上に重ねられた色付きの透明素材が乱反射させることで、電飾がなくても目の部分が輝いて見える仕組みだ。
鏡の上に色付きガラスを重ねた美しさ。これで、平成仮面ライダーの目を作っている。
つまり俺が今用意すべき素材は、『ミラー素材』と『その上に重ねる透明な素材』。
元の仮面ライダーの目に見える目を作るには、どうしたらいい?
……よし。よし。
見えてきたじゃねえか、完成像。
「赤っぽい下敷き! 塩ビ製のやつ買ってきてください!
あとできれば大きめのフォトフレームを! 下敷きに合う大きさで!
どっちも百均に行けば買えるはずです! 超特急でお願いします!」
スタッフさんの大人に向け、叫ぶ。
「分かった! 20分で戻る!」
15分で戻ってこいやダボが!
「急がなくていいです、事故りますよ! ああやっぱ事故らない程度に急いでください!」
「ああ!」
ちくしょう急いでくれよ、んでもって事故らないでくれよ頼むから。
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