強いと
おう、夏だぜ。
いや、もう夏とかどうとか関係ないぜ。
熱すぎる。もう、暑いとかそんなレベルじゃない。
熱い。熱いだ。
ここは砂漠。
眩しい太陽が照り付けて、砂を激しく焼いていく。
流砂やサボテンにまみれた光景は、もう見るだけで心の芯まで暑くなってしまうぜ。
本当に、砂漠だ。
どこを見渡しても、広い広い砂漠が地面を覆っている。遠くの方の景色は揺らいでいて、まるで蜃気楼のような影が揺らいでいた。
……まずい。
今回はいくらなんでも、まずいかもしれない。
いくら世界一強いと言われているおれでも、こればかりには敵わない。
環境という、この世界の絶対的なルールには。
あぁ。
もう……。
喉が、カラカラだ。
この暑さの前では、流石のおれも、枯れ果ててしまいそうだぜ。
おう暑いぜ?
おれは頑張るぜ?
燃える太陽光を浴びて?
角を振りかざすこの姿は、わくわくするほど決まってるぜってか?
馬鹿野郎。
そんな余裕があるもんかよ。
砂漠だぜ。砂漠で、めちゃくちゃ喉が渇いてるんだぜ。
そんな、自分の姿に酔いしれてる余裕なんざあるかってんだ。
あぁ、早く。早く、オアシスを……。
――――なぜ、俺はこんなところにいるのか。
それはあの原生林での一件から、数日経った頃だった。
原生林に、大量にアイルーがやってきたのだ。
群れの移動なのか、それともただの狩りなのか。あいつらが何を考えているかは分かんなかったが、いずれにせよ俺は逃げるしかなかった。
もちろん、アイルーを倒せない、なんて理由ではない。
いや、むしろ倒せないで合ってるか。
おれは地上最強の虫だ。世界一強いと言われている存在だ。
アイルーに後れを取る訳ではない。
ただ、おれにはあんな可愛いものは倒せねぇ。
……もう一度言うぞ。
おれには、あんな可愛いもんは倒せねぇんだ。
いくら強いといっても、ただ無差別にその力を振り回すのは蛮勇としか言いようがない。おれくらいになると、力の使い時をしっかり見極めるもんだ。
アイルーは、可愛い。
ふわふわで、もふもふで、声もとっても可愛らしくて。
おれには、あんな素敵な奴らに手……じゃねぇ、角を上げるなんて、とてもじゃないができなかった。
相手にはできない。手を上げたくない。
故に、距離を置くしかない。
世界一強いと言われている虫が、この体たらくだ。情けないだろ? 笑ってもいいぜ。おれはあいつらを傷つけるくらいなら、笑われることを選ぶ。
……とまぁ、そんなこんなでな。
気付いたら、おれはここにいた。何とかアイルーから離れようと羽を震わしていたら、この砂漠に着いていた。
砂漠は、大変だ。
何といっても、水がねぇ。水がないから、木もほとんどねぇ。
おかげでおれは腹ペコだ。もう随分と長い間、何も飲まずに彷徨っている。
――――だからこそ、だ。
長い時間を我慢して、ようやく入れたその一杯は。
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