ハーメルン
魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)
魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部3話)
3年前。
マミや杏子が魔法少女になる前の六千石町に、キュゥべえはいた。
大きな工業地帯を抜けた先にある病院の屋上。
仲の良さそうな姉妹が会話をしているのを眺めていた。
「お姉ちゃんは来年からひとり暮らしなんでしょ?」
「ひとり暮らしじゃなくて、寮生活かな。だからこうして会いに来るのも難しくなっちゃうんだ」
姉と呼ばれる少女は、車椅子に乗る妹を後ろから支えて話をしていた。
「どうした? 寂しいのか?」
「そんなわけないでしょ、私 もうすぐ6年生だよ? お姉ちゃんがいなくても平気だもん。勉強しろってうるさく言われなくて済むし」
「あ、こいつ~」
生まれつき足が悪く入退院を繰り返してきた妹と、高校進学を機に県外で寮生活を始める姉。
妹想いの姉は、入院中にはよくこうして見舞いに来ていた。
学校を休みがちな妹の勉強を見てやったり、話し相手になったり、共働きの両親に変わって妹の面倒をよく見る、健気な姉だった。
「ねえ、もし足が治ったら何がしたい?」
「え? 急にどうしたの?」
「いや、今は歩くことも大変かもしれないけど、自由になったら何がしたいかなって」
妹の不自由な足は治る見込みのない病だと、姉は知っていた。
先天性の疾患で原因がわかっていないうえに、現代の医学ではどうしようもないものだった。
「う~ん、そうだなぁ……思いっきり走ってみたいかな。自分で走るって気持ちいいんだろうね」
「お、いいね。そしたら私と競争しようか」
「あはは、お姉ちゃんには勝てないよ。お姉ちゃんは陸上の選手だもん。だから遠い学校に通うことになったんでしょ?」
「何事も諦めたらそれまでだ。努力すれば空だって飛べるさ」
「空は飛べないよー」
ふたりの明るい笑い声が屋上に響いていた。
「そろそろ冷えてきたから、中に入ろうか」
「……もう、帰っちゃうの?」
「また明日、来るから」
そう言って車椅子と一緒に病棟に入って行く少女たちを眺めていたキュゥべえは、姉の姿に魔法少女の素質を見ていた。
あの姉は、強い願望を持っている。
それはキュゥべえだけに見える人間の少女のエネルギー源で、叶わぬ願いを秘めているからこそ魔法少女の素質となるものだった。
姉の中に見えた強い願いの光は、魔法少女たるに十分な熱源だった。
キュゥべえは、陽も暮れた住宅街を歩く姉の前に現れた。
病院帰りの姉は立ち止まり、奇妙な物を見るような目でキュゥべえを見つめた。
猫のような兎のような、小さな生き物。
紅くて丸い眼、長い耳、大きな尻尾、見たこともない小動物が、少女と向き合っていた。
「やあ、僕が見えるかい?」
「……へえ、喋れるんだ」
姉は驚くこともなく、落ち着いた様子でキュゥべえを見下ろした。
西の空に陽が落ち、薄暗い舗道に街灯が灯っている。
平日の帰宅時間ということもあって、姉の他にも家路を急ぐスーツ姿の男性や学生らしき女性が歩いているが、誰もその生き物に気付いていないようだった。
「やっぱり君には素質があるようだね。実は、僕はお願いがあってここに来たんだ」
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