逃亡生活その2
「―――――大丈夫? 怪我とかしてない?」
車に轢かれる、猫を庇った凪はそう思って瞳を閉じ、いっこうに来ない衝撃に困惑しながらその声を聞いた。
目を開けた凪の視界に入ったのは、変わったグローブを付けた少年が車を片手で受け止めているという、とてもではないが信じられないような光景だった。
「助けられて良かった」
そう言って少年は笑みを浮かべたまま空を飛んで去っていった。
友達が居らず、家族にすら疎まれていた凪にとってその少年との出会いを忘れる事は出来なかった。
まるでヒーローみたいだ。
凪にとってその出会いは決して色褪せる事の無い至高の宝石になった。
それからというもの凪は毎日家の外に飛び出してその少年の事を探した。
自分を助けてくれた少年にお礼を言うために――――。
今にして思えば、あの時の出会いが全ての始まりで、全ての切っ掛けだったのかもしれない。
その時のことを彼が全く覚えていなかったのには少し怒りを覚えたが、それでもただ一つ、唯一無二にして偽りの無い真の言葉で言える事がある。
―――――彼は私を必要としてくれたのだ。
彼との再会以降、凪の生活は以前とは比べ物にならない程に豊かなものになった。
一人ぼっちだった自身の事を友人だと言ってくれる友が出来た。
一緒に買い物をしたり、他愛の無い会話をしたり、本当に心の底から楽しいと言える生活を送ることが出来るようになった。
故に凪は今の自分を作ってくれた沢田綱吉の事を心の底から慕っていた。
だからこそ、彼女は綱吉の願いを叶える為に動く。
例えその願いが決して叶えてはいけないものだったとしても、彼女は彼の願いを叶える為に動くだろう。
+++
「流石はアメリカのステーキ、大き過ぎるにも程があるだろ…………」
家出をした日から一週間が経過した日のこと、俺はテーブルに出されたステーキを見て感嘆の声を漏らしていた。
現在の居場所はニューヨーク。アメリカ合衆国で最も普遍的な都市の名前である。
ラスベガスで金銭を稼いで以降、公共交通機関を使わずにアメリカを移動しまくっていた。
車とか乗り物を使って移動するとどうしても足がついてしまうので、手間暇かからないとはいえかなり疲れるのだが文句は言っていられない。
「ボス。食べられるの?」
「うーん。死ぬ気になれば食べられるだろうけど…………凪の方は?」
「私は食べられないかも…………」
「じゃあ俺が食べるから頂戴」
超死気モードはかなりの体力を消費する。
今夜もまた移動するからその分しっかりと食べて英気を養わなくてはいけない。
「しかし、そろそろアメリカからも逃げないとな」
綱吉はステーキを咀嚼しながら窓の外に視線を向ける。
人々の喧騒で賑わう街中で数人の黒スーツを身に纏った男達が写真を手に持って道を歩く人に聞き回っていた。
よく見るとその手にある写真には自分の顔が写っていた。
間違いなくボンゴレファミリーですはい。そうでなくてもマフィア関係者ですはい。
「やっぱり幻覚で誤魔化すのにも限度があるか…………」
と、言うよりは証拠をなるだけ残さないようにしていたから、まだアメリカに居ると思われている。
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