第四話 気まぐれな悪戯兎
春休みというものは若者たちに癒しと安らぎを与える、言わば聖母のような存在である。しかし、どんなものにもいつかは終わりが来る。
「……」
そして彼は現在、自宅でノートとにらめっこをしていた。
「終わりが来ない……」
そう、宿題だ。春休みは高校生にとっても暖かい存在だが、それと同時に悪魔が潜むのである。タクトは春休みが始まる前にもらった問題集をつい数日前に発見したのだ。
「……」
今の時刻はちょうど学生が登校するころだ。休みであるにも関わらず、学校がある時の癖で早く起きてしまったのがタクトだ。朝食を済ませて特にやることもなかったので気まぐれに春休みの宿題をやり始めたのだ。
「……やっぱりめんどくさいな。やめるか」
宿題をやり始めて三十分、彼は解きかけの問題を閉じて立ち上がった。
私服に着替え、腕時計を着ける。
「……散歩にでも行くか」
ゲームや本を読むという手もあるが、なんとなく気が乗らなかった。彼の行動理念は気まぐれなのだ。そうして宿題に手を出してみたが、残念ながら彼は決して勉強が好きということはなかった。
タクトがあてもなく街をぶらついていると後ろから声をかけられた。
「あ! おーい! タクト君!」
何事かと思って後ろを振り返ってみると、そこには大きく手を振っているココアがいた。よく見ると彼女は高校の制服を着ている。
「ココアか。おはよう。学校か?」
「おはよう! そうだよ。タクト君は今日は学校じゃないの?」
ココアはタクトの私服姿を見て首を傾げる。
「ああ。俺達の学校は明日からなんだ」
「そうなんだ。私はこれから入学式なの!」
彼女は嬉しそうにその場でくるりと回った。
タクトはそれを見て微笑んだ。
「制服、似合ってるな」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑う彼女の姿を見てタクトはいい暇つぶしを思いついた。
「そうだ、俺今暇だから少しついてっていいか?」
「うん! いいよ! じゃあ一緒に行こう!」
そう言って先を歩くココアの後ろを歩きながらタクトはこう思った。ラビットハウスには随分と面白い新人が入ったな、と。
ココアと一緒に学校を目指して数分後、タクトは街の公園にたどり着いた。
「なかなか学校に着かないなあ……」
「迷ったのか?」
「大丈夫だよ! って、あー!」
ココアは公園でたむろしている野良ウサギに近寄った。
彼女はウサギに目が釘付けになり、ウサギもまた彼女を見つめる。
「これが噂に聞く……野良ウサギ!」
そして、彼女はウサギを抱き寄せここぞとばかりに撫で始める。
タクトは穏やかな気持ちで彼女を見つめる。
「はわぁ……モフモフ……気持ちいい……」
タクトは気持ち良さそうにウサギを愛でるココアを見ながら以前出会った金髪の少女のことを思い出した。ココアとは対照的にウサギからとにかく離れようとしていた彼女を想像してタクトは小さく笑った。
「モフモフ天国〜……あ!」
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