第七話 甘味と兎
ラビットハウスの看板メニュー開発の後日、天気も良く、バイトも休みであるタクト達は街を歩いていた。
「千夜ちゃんの話だとこの辺だと思うんだけど……」
「また迷ったのか?」
「……タクト君って結構失礼だよね?」
「そうか?」
ココアからジト目で見られながらタクトがこの木組みの街を歩いているのには訳がある。
先日のパン作りでお世話になったお礼に、と千夜が働いている喫茶店に招待されたのだ。
なので、こうしてラビットハウスの顔ぶれと共にその喫茶店を目指しているという訳だ。
「なんて名前の喫茶店なんですか?」
「確か……甘兎、だったかな?」
「甘兎とな!?」
甘兎という言葉を聞いた途端チノが、と言うより彼女の頭の上のティッピーが声を上げる。
彼の中身はチノの祖父だ。彼の生前にラビットハウスと千夜の喫茶店とで何かあったのだろうか。
「チノちゃん知ってるの?」
「おじいちゃんの時代に張り合っていたお店だと聞きます」
どうやらラビットハウスのライバル店だったらしい。どうりで先程からティッピーが何やら険しい表情をしている訳だ、とタクトは頷く。
間も無くして一つの甘味処と思われる店に着いた。
「ここじゃないか? 看板だけやたら渋いな」
リゼの言う通り店の外観は周囲の建物に合うような西欧チックな佇まいだが、店に掲げられた木製の看板だけは歴史を感じさせるような体裁である。
「……おれ、うさぎ、あまい?」
どうやらココアは看板の文字を左から読んだようだ。その上庵と俺の文字が混同したらしく、謎のスウィートラビット宣言をした。
「……甘兎庵な」
リゼの訂正が果たしてココアの耳に入ったのかはさておき、一行は甘兎庵のドアをくぐった。
「あら? 皆、いらっしゃい」
店に入ると着物姿の千夜が四人を出迎えた。
「あ! その服、お店の制服だったんだ! 初めて会った時もその格好だったよね」
「ああ、言われてみれば」
「あの時はお仕事でお得意様に羊羹を配った帰りだったの」
それであの時羊羹を持っていたのかとタクトは納得した。
「そうだったんだ! あの羊羹美味しくて三本もいけちゃったよ」
「三本まるごと食ったのか!?」
「そう言えば栗羊羹のカロリーはどのくらいなんだろうな」
「……」
タクトのつぶやきを聞いた瞬間にココアは笑顔のまま硬直した。なんとも奇妙な光景である。
「一般的な羊羹自体がカロリーの塊のようなもので、そこに栗が――わかった。この話はやめるからそんな目で見ないでくれ」
栗羊羹について推察するタクトにココアはやめてくれと懇願せんばかりの視線を送る。
「……タクトってなかなか容赦ないよな」
「ふふ、うちの栗羊羹はカロリーと糖質を抑えているから大丈夫よ?」
「本当……?」
「ええ」
「そっか! なら大丈夫だね!」
「変わり身早いな!」
「あ! ウサギだ!」
早くも立ち直ったココアは店の中央の小さなテーブルに座っている王冠を被った黒いウサギの置き物に目をつけた。
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